場末の映画館が全国のファンが訪れる「聖地」に…兵庫・塚口サンサン劇場の仕掛け人に訊く、町の巻き込み方
SNSは365日、24時間体制で発信
──そういえば、著書ではSNS戦略については触れられなかったですが、どのような対策をしていたんですか? Xってスマホさえあれば0円でできるから(笑)、やらない手はないですよね。365日、24時間体制でずっと発信していました。こんなにやってる劇場はないと思いますよ。それによってお客さんの要望もわかるし、こちらがリポストや引用をするだけで距離がグッと縮まって、信頼関係みたいなものができてくる。宣伝というより、本当にお客さんとのコミュニケーションのためのツールです。 ──実は私も、観たい作品をつぶやいてお返事をいただいたことが何回かあります(笑)。宣伝だけじゃなくてフォロワーとのコミュニケーションが上手い公式サイトは、まめにチェックしたくなりますよね。 宣伝するにしても、言葉の使い方、時間帯、タイミングとかはめちゃくちゃ勉強して、実践しています。「明日の◯時に、なにかありますよ」と一回匂わせを入れるとか、アニメーション作品の情報は、学生さんが帰って来る15時ぐらいに出す方が拡散しやすいとか。 ここまでSNSをしっかりとやってなかったら、こんなに多くのお客さんに認知されることもなかったですね、絶対。
「それなりの役職の人間が、真っ先にバカなことをする」
──サンサン劇場さんのイベントは、カオスではあるけど無秩序にはならないバランスも見事ですが、なにか秘訣があるんでしょうか? これは本にも書きましたけど「アホのマウントを取りに行く」という。やっぱり「なんとかして目立ってやろう」と悪ノリする人は存在するので、それを阻止するには、劇場の方が・・・しかもそれなりの役職の人間が、真っ先にバカなことをしたら「あ、余計なことせんとこう」っていう空気になるわけです。一番ダメな例を、率先して出す(笑)。 ──その「それなりの役職の人間」が戸村さんなわけですが(笑)。『ボヘミアン・ラプソディ』ではフレディに成り切り、『グレイテスト・ショーマン』ではミニパフォーマンスまで飛び出すとか、もはや戸村さんの前説は、完全に上映前の楽しみになってますよね。 昔は『爆笑レッドカーペット』のような、一発芸みたいなことをやったんですが、そういう場所じゃないと身にしみてわかりました(笑)。前説はあくまでも「ちゃんと映画を観ましょう、プラスアルファで楽しみましょう」というのを見せるためのものだと。 今はその作品の世界を壊さないよう、何回も映画を見て台詞を書き出したりして、お客さんが喜ぶ言葉を入れるなどの工夫をしています。 ──映画の世界観をちゃんと反映したうえで、最大の禁止事項を見せるという。 そうですね。ただ単に「イベント上映やりますよ。時間が来ました、はいどうぞ」ではなく、なにかあった方がイベント感が出るし、その方が特別になる。それこそが体験、体感だと思うので、大変だけど今後もちゃんとやっていこうと思います。 ■ お客さんは「パフォーマーでエンターテイナー」 ──コロナ禍では花火大会を映画館で上映するとか、声を出さない応援上映をするとか、転んでもタダでは起きないような企画で乗り切ってました。 サイリウムで文字を作るとか、手話をするとか、鈴を鳴らすとか、お客さんはすごく考えてました。「声の代わりに、紙吹雪を撒いていいですよ」というときは、いろんな形の紙吹雪を持ってきたり・・・。「自分が考えたことを、周りの人たちは楽しんでくれるかなあ?」と思いながらやっているんでしょうね。 ──そうなると、もう応援というよりパフォーマンスですね。 そうですね。お客さんはお客さんでパフォーマーだと思いますし、エンターテイナーだと思います。自分のファンアートを、見ず知らずのお客さんに配る方もいるんですけど、それも「みんな(この作品が)好き同士やから、受け入れられる」ということがわかったからです。だからお客さんも、クリエイティブな楽しさに気付いたんでしょうね。 自分たちで、より自分たちの時間をおもしろくすることができるって。それはすごく素晴らしいことなので、もっともっとみなさんには考えてもらって、おもしろいものを作っていただけたらうれしいです。それを超えるようなことを、こっちも考えなあかんというのは大変ですけど(笑)。