待望の特別支援学校がついに…峠越え片道1時間超のバス通学から解放される。「暮らす地域で学べる意義」。知事が新設決断した背景
発達障害の子どもたちへの指導や支援を含めた特別支援教育がスタートして今年で18年目となる。学校関係者や保護者らに広く知られるようになり、特別支援学級などで学ぶ児童生徒は急増。教員不足や学びの質といった課題も見えてきた。鹿児島県内の現状を報告する。(シリーズ・かわる学びや@鹿児島~特別支援教育の今=10回続きの⑦より) 【シリーズ「特別支援教育の今」を初回から読む】まさか自分の子が…かつて無理解だった特別支援学級は今、急速に増える。上限8人の小所帯。「ここが、この子の居場所」
10月初旬の朝、霧が立ちこめる湧水町のスーパー駐車場に、車が次々と止まり始めた。大型バスが到着すると、車から降りた子どもたちが乗り込む。出水市の特別支援学校(特支)まで1時間超の道のりだ。 峠を越えるルートは、大雨による土砂崩れや降雪で通行止めになることもある。子どもを見送った母親たちは「いつか災害に巻き込まれたりはしないか不安」と漏らす。 伊佐市と湧水町から出水特支に通う児童生徒は2024年5月時点で59人。さつま町なども含めると90人に上る。負担軽減や地域で学べる環境づくりを求め、伊佐の保護者は16年から特支設置を要望。21年には湧水の保護者も加わった。 ◇ 特別支援学級だけでなく、特支の児童生徒も増えている。近年は比較的軽い障害の子が、より手厚い支援を求めて入学を希望するケースもあるという。鹿児島県教育委員会によると、県立特支15校の通学生は5月1日時点で計2700人。1999年の約2倍だ。学校別では霧島市の牧之原が2倍、出水は開校した2000年の2.7倍に増えている。
牧之原特支は図書室を教室に転用するなど教室不足が深刻化。志布志市や姶良市から1時間以上かけて通う子もおり、伊佐・湧水地区同様、地元の特支を求める声が上がっていた。 これらの課題解消に向け県教委は22年度、有識者らによる検討委員会を設置。23年2月には曽於地区、伊佐・湧水地区、姶良地区の順で、新たな特支か分校・分教室の設置を検討することが望ましいと提言した。 塩田康一県知事は今年2月、志布志市の伊崎田学園内に特支を開設することを表明。9月には、伊佐市の旧大口南中学内にも設置する意向を明らかにした。 ◇ 「本当にありがたい」。「志布志市に特支をつくる会」の有馬りゑ代表(41)=同市=は、念願だった地元への特支開設を喜ぶ。 ダウン症の長女が牧之原の小学部3年に在籍。バスで約1時間半かけて通うため、入学時はトイレに備えてオムツを履かせていた。学校で体調が悪くなれば、パートを休んで迎えに行く。伊崎田なら自宅から車で約10分で駆けつけられる。
【関連記事】
- 【シリーズ「特別支援教育の今」①~⑤を読む】まさか自分の子が…かつて無理解だった特別支援学級は今、急速に増える。上限8人の小所帯。「ここが、この子の居場所」
- 【シリーズ「特別支援教育の今」⑥】途切れる発達支援…高校は小中学校と別世界、個と社会の段差をどう埋める? 「特別」ではない環境づくりへ私学が道を開いた
- 【併せて読みたい】療育が広がり認知上がる発達障害、保護者の抵抗感も減る? 特別支援学級の在籍数7.3倍に、顕著な「自閉症・情緒障害」は21倍 鹿児島県内の公立小中
- 【関連】バスで往復3時間→自宅から車で片道10分…遠かった特別支援学校が身近に、新設喜ぶ保護者 志布志・伊崎田学園内に28年度開校
- 【関連】小中一貫校内に特別支援学校 28年度開校へ こども園も隣接「インクルーシブ教育のモデル地区に」 地元に高まる期待 志布志