激動のバスケキャリアの果てに、長岡萌映子が選んだ“自分の生き方”。「私たちはアスリートである以前に一人の人間」<RS of the Year 2023>
ENEOS移籍の背景にあった家族の存在。チームへの信頼と責任
トヨタ自動車移籍と日本代表で大きな学びを得た長岡萌映子。念願のシーズンタイトル獲得、東京五輪では貴重な経験を得た。しかし、2021-22シーズン終了後に、ENEOS移籍を決断する。気になったのは、その理由だ。それはモエコがここ最近、日本代表活動を辞退している要因でもある。人間としてのモエコが下した、その決断とは。それは、他のアスリートにとっても大事なことだと思う。 ――プレーヤーとして成長した長岡萌映子はトヨタで2連覇を飾ります。でも、移籍をあえて決断しました。その理由はどこにありますか? 長岡:ENEOSに移籍してきた理由に、家族の健康状態があるんです。実は姉が、オリンピックが終わった2021年9月にガン宣告されて、そこから1年間トヨタで頑張ったんですけど、さらに翌年2月ぐらいに家族の健康状態もあり、私自身メンタル面の不調があったんです。だから私、昨シーズンのシーズン後半は出ていなくて、2カ月ぐらい休んでいたんですよね。帰ってきたのがセミファイナル2週間前ぐらいで、それこそ体もできていなかった。 ――でも、試合にはポイントで使われていましたよね。 長岡:以前ルーカス(ルーカス・モンデーロ前トヨタ自動車ヘッドコーチ)に会った時、『あそこでチームの質が落ちなかったのはモエコがいたからだよ』と言ってもらえた。ポイントで使ってもらえるユーティリティー性も、また自分にとっては学びですよね。 ――昨シーズンのファイナル終了後に、町田(瑠唯)選手や引退した篠崎(澪)さんと泣きながら抱き合っていて、引退するのかなと思っていました。 長岡:あれ、実はルイさん(町田瑠唯)が私の家族の状況を知っていたんです。シィさん(篠崎澪)も直接しゃべってはいないけど、何かあると知っていた。あとは渡邉亜弥選手とタクさん(渡嘉敷来夢)も知っていた。それで、みんなが「よく頑張ったね」と、声をかけてくれたんです。その涙でした。 ENEOS移籍の伏線とか憶測も出ましたけど、全然そんなことはない。タクさんは、私を心配してくれていて、「大丈夫か」と話しかけてくれた。移籍どうこうじゃなく、号泣していたのは、ただタクさんや先輩たちが優しかっただけなんです(笑) ――その家族のことがENEOS移籍の決め手になった、ということですか? 長岡:その背景があり、私自身が家族を近くでサポートしたいと思って、移籍を決めました。チームにはサポート面も考慮してもらって、それでも私を必要だと、言っていただいたんです。 ――クラブや監督が個人を尊重するのは、働く上で、すごく重要なことだと思います。だからこそチームに貢献したいという気持ちも大きくなりますよね。 長岡:そうです。私の状況を考えていただけたのは、本当にありがたかった。チームにはすごく感謝していて、恩返ししたい気持ちがあるから、必然的に力は入る。私は、バスケ以外のことを優先したかった。だからこそバスケで貢献したい、目標に向けて何があってもプラスになりたい。そう考えています。