【訂正】『西園寺さん』『クラ好き 』『Shrink』の秀逸な脚色 原作を見事に映像化した夏ドラマ3選
志が見えた『Shrinkー精神科医ヨワイー』
次に、9月14日に放送を終了した『Shrinkー精神科医ヨワイー』(NHK総合)。原作・七海仁、漫画・月子による同名漫画を原作に、小説家で脚本家の大山淳子によるシナリオでドラマ化した。 第1話の「パニック症」は、原作でも第1話に登場するエピソード(原作ではタイトル「パニック障害」)で、患者の境遇を独身女性から、働くシングルマザーの設定に変えている。このアレンジにより雪村(夏帆)の過酷さがよりわかりやすくなったうえに、保育園の送り迎えの際に耳にする「ママたちの井戸端会議」で、精神科・心療内科に通う患者への偏見を提示した。最後に息子のお遊戯会で希望を表現した展開も美しかった。 主人公の弱井を演じる中村倫也が、この人以外には考えられないという見事なキャスティングだ。彼のソフトで寄り添うような言葉が、患者たちの中にスッと落ちていくのを感じながら、観ているこちらも同じ状態になる。 第1話では主に「精神科」に対する偏見を解き、続く第2話「双極症」、第3話「パーソナリティ症」では、それぞれの症状についてより詳しく描かれた。「病名ぐらいは聞いたことあるけど」程度の「知っている」から生じる誤解を、弱井が丁寧に解きほぐしていく。どんなことがきっかけで病気になるのか、脳内のどんなメカニズムでそうなるのか、どんな特徴があるのか、どんな治療と、どういった取り組みをしていけばいいのかなどが、つぶさに、リアリティを伴って描写されていた。 アメリカでは4人に1人が精神疾患の患者であるのに、自殺率は世界で20位。対して日本の精神疾患の患者は12人に1人だが、自殺率が世界で6位。この「隠れ精神疾患大国」の現状はかなり深刻だといえる。ドラマを通じて、精神科への通院のハードルを下げたい、苦しみを独りで抱えている人の背中をさすって、押したいという、作り手の志が感じられた。 わずか3話のみの放送だったが、「これからまだ続きがあるのでは」と思わせるラストシーンだった。続編に期待したい。