【訂正】『西園寺さん』『クラ好き 』『Shrink』の秀逸な脚色 原作を見事に映像化した夏ドラマ3選
人と人が寄り添いあうことを描いた『西園寺さんは家事をしない』
最後は、ひうらさとるによる同名漫画をドラマ化し、9月17日に最終回をむかえた『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。この作品もキャスティングの勝利といえるのではないだろうか。 西園寺さんを演じる松本若菜のコメディエンヌとしての才能が鮮やかに花開いていたし、それを受ける、真面目で不器用な楠見を演じる松村北斗(SixTONES)の「間」の芝居が素晴らしかった。加えて、ルカを演じた倉田瑛茉の愛くるしさ。とくに、初対面の人に対する幼い子ども特有の「はじらい」の表現が完璧であった。子どもがフィーチャーされる作品では、子役の「自然さ」がいかに大事かということを、改めて思い知らされた作品であった。 さらに、人気料理系YouTuberで、西園寺さんの「仮彼氏」となり、やっぱりフラれるカズト横井を演じた津田健次郎も見事だった。原作者のひうらさとるも、いわゆる「当て馬」ポジションの横井のドラマ内でのキャラ立ちについて、X(旧Twitter)で「なぜ横井さんがこのポジションなのかわからないほど魅力的なんだが」と発言している。(※2)挿入歌「ぐるぐるさんのテーマ」の出来も秀逸で、津田の“シリアスコミカル”な表情とダンスと共に、いつまでも脳内に焼きついて離れない。 西園寺さん、楠見、ルカが作った「偽家族」を通じて、「形にこだわらず、『やりたいことをやる』を優先し、相手への優しさを忘れず、その人らしい幸せを探していけばいい」というメッセージを発していた本作。原作では西園寺さんと楠見の恋模様がより強く打ち出され、キスシーンもあったが、ドラマではオリジナルの展開にしていた。 西園寺さんと楠見のスキンシップは、第10話でぎこちなく手をつなぐにとどまり、結婚もしない。エリサ(太田莉菜)のアシストで海外に移住することになった3人が旅立つところで終わるという、含みを持たせたエンディングだった。この作劇によって、細部は視聴者の想像に委ねられ、より本作が打ち出す「人と人が寄り添いあうこと」「多様性の尊重」というテーマが強く伝わった。空き部屋となった西園寺さんの家を、カズト横井の「子ども食堂」に貸し出すというドラマオリジナルエピソードも冴え渡っていた。本作も、含みを持たせる終わり方からして、続編が期待できるのではなかろうか。 今年は「原作ありドラマ」の是非について考えさせられる年となったが、こうした「原作とドラマの幸せな関係」を見せてもらえるのは僥倖の極みだ。原作を映像化するにあたり一番大切なことはやはり、原作と原作者へのリスペクト、そして、原作の根幹にある「スピリット」を大事にするということではないだろうか。今後も、愛のある「原作ありドラマ」が生まれることを切に願っている。 参照 ※1. https://encount.press/archives/675664/ ※2. https://x.com/marikosatoru ※記事初出時、以下表記に誤りがございました。以下削除の上、お詫び申し上げます。(2024年9月24日09:50、リアルサウンド編集部) 誤:結末は結婚へと至るのだが、
佐野華英