“スマホ依存症”のやす子が「100時間スマホなし」の社会実験をした結果…SNSでメンタルがダメになるこれだけの理由
なぜスマホはメンタルを下げる?
SNSを見ている時間やインフルエンサーの存在がどれだけ影響を与えているのか、正確に証明することはできませんが、グループのヒエラルキー内で自分の地位が下がり続けていると感じると、心の健康を害するのは実に当然のことです。 様々な調査で、1日に4~5時間SNSをやっている若者は「自分に不満を持っている」「不安や気分の落ち込みを感じている」ことが示されています。とりわけ10代の女子にそれが顕著なのは、女子の方がスマホを見ている時間の多くをSNSに費やしているからかもしれません。 平均的に言うと、同世代の男子はもっとゲームをしています。 調査対象になった15歳女子の62%が心配、腹痛、不眠といった長期的なストレスの症状を訴えていて、80年代に比べてその数は倍になっています。 私たちは必死でグループに属していようとした人たちの子孫です。1日に何時間も他人の完璧な生活と自分を比べてしまうことで、脳は「自分はヒエラルキーの1番下にいる。グループから追い出されるかも!」と勘ちがいしてしまうのです。それならば、自分にそんなメッセージを送る時間を制限する、つまりSNSを見る時間を減らすのが良いでしょう。 不安には深呼吸が効くというアドバイスをしましたが、ここでは「SNSに費やす時間を1日1時間に留める」というのがアドバイスです。そうすれば心が元気になる可能性も上がります。
セロトニン・レベルの影響
脳の中でつくられる「セロトニン」は驚くべき物質で、メンタルの様々な仕組みに影響するため、その役割も複雑です。しかし最も重要な仕事は、私たちが「どのくらい引きこもりたいのか」を調整することでしょう。セロトニンのレベルが低いとその人は自信を無くし、後ずさり、自分の殻に閉じこもってしまいます。これはうつによくある行動なので、一般的な抗うつ剤にはセロトニンのレベルを上げる効果があります。 セロトニンの役割を理解するために、わかりやすい例を2つ挙げてみましょう。 1) セロトニンのレベルを上げる薬の混ざった水に小さな魚を入れると、魚たちは自信満々になります。慎重ではなくなるので、大きな魚に食べられてしまう危険が上がります。逆にセロトニンのレベルを下げる薬の入った水に入れると魚は隠れてしまい、飢え死にする危険があるほど慎重になります。つまりセロトニンのレベルがちょうど良くないと自然界では命に関わるのです。 2) カニはよくケンカをしますが、たいていは優勢な方のカニが相手を引き下がらせます。しかし劣勢なカニにセロトニンのレベルを上げる薬を与えると、そのカニは自分がヒエラルキーの上にいると思い込み、引き下がろうとしません。サルや人間といった大型生物のセロトニンもほぼ同じように機能します。ヒエラルキーの上位にいる個体は、人間でも脳のセロトニンのレベルが高いようです。それが社会的な自信につながっているのでしょう。 さてここで、「グループの中の居場所を失うのが怖い」という話に戻ってみましょう。もうわかると思いますが、その恐怖はセロトニンのレベルが下がったことからきています。セロトニンのレベルを上げる薬を飲むと、多くの人のメンタルが回復するのもよくわかります。 なぜこんな寄り道をしてまで魚やカニの話をしたかというと、「自分が思っているヒエラルキーの位置」と「その人の精神状態」は大いに関係があることを示すためです。先ほどの「SNSの時間を限定する」というアドバイスを思い出し、自分のメンタル改善に役立てましょう。 アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen) 1974 年スウェーデン・ストックホルム生まれ。精神科医。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『一流の頭脳』は人口 1000 万人のスウェーデンで 60 万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。『最強脳』『ストレス脳』なども合わせた日本での同氏の著作は累計 110 万部を突破している。 マッツ・ヴェンブラード(Mats Wanblad) 1964年スウェーデン・ストックホルム生まれ。児童文学作家。 協力:新潮社 Book Bang編集部 Book Bang編集部 新潮社
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