仲村トオル主演のドラマ「飯を喰らひて華と告ぐ」1話12分とは思えない“満腹感”が残した爪痕
絶品料理とシュールな笑いがクセになる、新感覚グルメドラマ「飯を喰らひて華と告ぐ」。原作は「ヤングアニマルWeb」にて連載されていた同名漫画で、2024年7月から9月までTOKYO MXにてテレビドラマが放送された。1話12分というショートスタイルながら、キャラの濃さとゲストの豪華さが“驚くほどの満腹感”でネット上では「この夏一番おもしろい」という評価を得るほどに。そんな異色のヒットドラマを、いま一度振り返る。 【写真】仲村トオルの“店主”が奇妙なまでにハマっている「飯を喰らひて華と告ぐ」 ■旨い料理と謎の勘違いで腹は満たされ心は戸惑う(!?)異色のドラマ 「飯を喰らひて華と告ぐ」は、路地裏にひっそりと佇む中華屋のような店構えの料理屋「一香軒」が舞台。客が望むものは「何でも出す」と豪語する謎の凄腕店主が営むこの店では、毎日さまざまな人間ドラマが生まれている――。 だが生まれているドラマは、どうにも不協和音たっぷりの不条理コメディ。その生みの親は来店した客たちの人生の悩みを瞬時に見抜き、それぞれにベストマッチした最高クオリティの料理を提供する店主だ。 この店主、料理の腕は口ぶりに負けないほどの凄腕。だがとにかく…“勘違い”が激しい。「そうはならんやろ」という斜め上の勘違いと、人の話を一切聞かない思いこみ力を武器に、まったくズレたアドバイスや名言を自信満々に放つのである。 そんなズレまくった店主に、客たちは困惑したり、腹を立てたり、笑い出したり。日々ドラマや事件が絶えないというわけだ。公式のキャッチコピーが「味はピカイチ、心はイマイチ」「胃袋掴んで心を離す」というのも笑い話だが、本編を見たあとなら深い納得感が得られるのもまた面白い。 主演の“勘違い店主”を演じるのは、俳優・仲村トオル。男気にあふれ、人情に厚く、お客さんに対して真摯に接する。空気は読めないけれどどこか憎めない、人間味あふれるキャラクターを忠実に作り上げている。 思い返せば、仲村トオルの俳優デビュー作「ビー・バップ・ハイスクール」も漫画の実写化作品。そのどちらもヒットに導いていると考えると、俳優・仲村トオルと「漫画実写化」の相性の良さにうなるのみだ。 ■豪華すぎるスペシャルゲストとオリジナル格言 同作の見どころは、なんといっても仲村と豪華ゲストの名演技にある。本ドラマは、毎話ごとに悩みを抱えた客が登場。たとえば第1話に「一香軒」へ訪れたのは、「学歴は優秀だがプライドが高く協調性0のサラリーマン」だ。そのほかにも「周囲から嫌われる頑固な偏屈オヤジ」「生徒の教育方針に頭を悩ませる校長先生」「自殺を謀ろうと森に入ったものの上手くいかなかった男」など、どこを切っても個性的な顔ぶれがそろっている。 こうしたちょっと“拗らせた”客を演じたのは、高橋ひとみやきたろうをはじめ、柄本時生、田村健太郎、吉村界人、福井俊太郎(GAG)といったジャンルを超えた実力派俳優たち。各回ごとに違った悩みや性格を持つスペシャルゲストたちに対し、仲村演じる店主はそれぞれへの“思い込み”から見出した料理「ハンバーグ」「カツカレー」「豚キムチ」「アジの姿造り」といったバラエティに富んだ絶品料理を提供。 たとえば自殺すら上手くいかずに落ち込む男性に出会った回では、ヤケになって地面へ寝ころんだままの男性を“テントも寝袋もなしに過ごすキャンプの達人”だと思い込んだ店主。勝手に男性を「師匠」と崇め、極上の海鮮パエリアを振舞った。しかし「実は自分、ソロキャンプの玄人では…」と打ち明けた男性に、さらなる勘違いをかぶせるという合わせ技も披露する。なにからなにまで謎。 また同作といえば忘れてはいけないのが、店主の名言たちだろう。「美きものにて事を成す」「弱気ヘチマも輪廻のごとし」「老いぼれ涙の萬治し」「滴る己の旨き汁、知る術なきこと貝の憐れみ」…わかるようなわからないような、聞いたことあるような、でもおそらく聞いたことはない言葉。でも自信満々な仲村の顔と声で言われると、意外なほどの説得力を持つのも同ドラマの魅力だ。 ちなみに仲村へインタビューをした際、彼は原作者本人から「作中に登場する店主の名言はすべて創作」と聞いたことを明かしている。さらに同インタビューでは店主に対して「わざと勘違いしたフリをして人を導いているんだろう」と人間像を想像していた仲村が、スタッフから「いや違います」と一瞬で否定されたエピソードも。演者も混乱させられていたと考えれば、同作の予想がつかないカオスっぷりも“さもありなん”というところだろうか…。 シュールな笑いがクセになる“新感覚”グルメドラマ「飯を喰らひて華と告ぐ」。12月25日(水)にはBlu-ray&DVDが発売される。なおBlu-ray版には特典映像として、メイキング映像や仲村トオル&先生の対談映像、予告映像を収録。また初回生産限定特典にはブックレットやスリーブケースのほか、店主役を務めた仲村が登壇するスペシャル・イベントへの参加応募券がついている。 1話12分という忙しい現代人にぴったりなボリュームながら、インパクトと情報量でお腹いっぱいにさせてくれる「飯を喰らひて華と告ぐ」。異色すぎるドラマの格言をしっかり心と体に刻めば、この冬もきっとホットな気持ちで過ごせるに違いない。