空き地に響く「ユーココール」 ガザで心身が疲弊していた私に元気をくれたのは現地の子どもたちだった
私がちょっとしたシールやお絵かき帳、折り紙、ペンなどを持っていたことや、私が今まで見たことのないアジア人で直毛なのも珍しいらしく、女の子たちには髪の毛を触られまくっていた。3、4日に1回しかシャンプーできていなかった私の髪の毛は汚れた子どもの手で触られまくりますます汚い状態になっていたと思う。子どもたちは学校に行けなくなってしまっているので知的刺激に飢えていたのかなと思う。学校で習った英語での自己紹介やアルファベットの歌などなどみんな自分たちの習ったことを誇らしげに披露してくれた。スマホで写真や動画を撮られるのが大好きなおしゃまな女の子たちも多かった。当たり前だけど日本やアメリカで見る子どもたちと全く雰囲気が同じなのだ。私と整形外科医がいつも「わーすごーい!」と子どもたちを褒めると子どもたちは満足げだった。 こうやって毎朝、病院に行く前と帰ってきてから子どもたちと交流をして仲良くなっていった。 ただ、精神的に凹んでいて今日はそんなエネルギーがないかも……という日は、子どもたちとの交流を正直避けようとしたこともあった。病院に行くのにはいつもの空き地の前を通らないと行けないのだが子どもたちに見つからないようにこっそり通り過ぎようとしても遠くからでもすぐにみつかってしまい、大勢で笑顔で駆け寄ってきて空き地に引きずり込まれたりした。「ユーコ!ユーコ!(ヨーコに聞こえる)」と大勢でユーココールしてくれた。嬉しいような、困ったような複雑な気持ちだった。でも子どもたちと触れ合うと、元気が出た。それでまた1日がんばれた。日が経つにつれてこの紛争のひどさへの絶望感も大きくなり、自分も憔悴して元気がない時も多くなっていったので、子どもたちが私の元気の源として欠かせない存在となっていた。 ※AERAオンライン限定記事 中嶋優子(なかじま・ゆうこ) 東京都出身。東京都立国際高校、札幌医科大学卒業。日本と米国の医師免許を持つ。日本で麻酔科医として勤務の後2010年に渡米、救急医療の研修を開始。2014年に米国救急専門医取得、2017年には日本人として初めて米国プレホスピタル・災害医療専門医を取得。国境なき医師団には2009年に登録。2010年に初めての海外派遣でナイジェリアで活動し、その後もパキスタン、シリア、南スーダン、イエメン、シリア、イラクで活動。2023年11~12月にかけてパレスチナ自治区ガザ地区で活動した。2017年より米アトランタ・エモリー大学救急部の助教授を務め、24年9月からは准教授職に。