千利休の刀を前に覚悟して。101歳の元特攻隊員、千玄室大宗匠の願い「なぜ自分だけが生き残ったのか。<茶の湯外交>から平和を願う」
◆幸せに生きるため今を大事に 先月も、ハワイ大学で講義をしてきたところです。「どんな生活をすれば、そんなに元気でいられるのか」と驚かれますが、毎日規則正しく暮らしているだけ。特別なことはしていません。 朝は4時に起床。海軍体操をして坐禅を組む。洗面後、利休居士はじめ歴代のご先祖にお経を上げ、庭にある2つの社に手を合わせてから5時に朝食。最近は、パンに野菜とミルクかみそ汁が多いですね。 昼は会合などの予定をこなし、夕食は家族と一緒にいただきます。夜7時にはすべての食事を終え、それ以降は一切飲食しません。日記をつけて、8時就寝。若いときから酒も煙草もやりません。 皆さん、年をとるのが怖いとおっしゃるけれど、寿命というものは決まっているのですよ。生まれた以上みんな死ぬのです。人間、誰もが裸で生まれ、裸で死ぬ。その覚悟はありますか。 今の60代や70代の方々は戦後生まれだから、苦しいときももちろんあったでしょうが、ほとんどが安穏とした時代に育ち、結婚して家事・育児をしてこられたはずです。最愛の夫と別れた人も、「この野郎」と思いながら一緒に生活している人もいるでしょう。夫婦なんてそんなものです。年とともに一緒に暮らす同居人になっていく。それで十分、幸せなのです。 子どもだって、「あんなに可愛がったのに、介護も世話もしてくれない」と不満に思うかもしれませんが、そういうことも笑ってすませるような、大らかな気持ちを持ちたいものです。
仏様はおっしゃいました。「一切皆苦(いっさいかいく)」。幸せなんて一瞬。人生のすべてが苦しみだと。あなただけではない。みんな、心を痛めている。誰もが苦しんで生き、苦しんで死んでいくのです。 だからこそ、大らかな気持ちを持って、手を取り合いましょうよ。せめて生きている間は、なにかいいことをしようではありませんか。新聞の人生相談には、孤独ゆえの悩みが数多く寄せられています。気持ちはわかるけれど、人間は基本、一人で生きていくのです。 私ども裏千家の庵号は、今日庵(こんにちあん)。千利休の孫・千宗旦(そうたん)が名付けました。今日の出会いが尊いものであるという強い思いを託したのでしょう。 そう、今日が大事なのです。明日がどうなるかは誰にもわかりません。どうか、過去を振り返らず、将来を憂えすぎず、今を大切に生きてください。皆さんの和やかな生活を心からお祈りします。 (構成=野田敦子、撮影=霜越春樹)
千玄室