「嫌や」で始まった常翔学園主将 名門の誇り、背負い 高校ラグビー
「名門」の存在を誇示するような大きな背中だった。 第104回全国高校ラグビー大会で5大会ぶりに4強入りした常翔学園(大阪第3)をまとめたのはNO8の井本章介主将(3年)だ。4試合で計4トライを挙げた。 【写真で振り返る】東海大大阪仰星-常翔学園(準決勝)全国高校ラグビー 入部して以来、監督は2回交代し、「花園」の連続出場も途絶えた。「暗黒期にしたくない」と覚悟を決め、仲間と成長してきた。しかし、キャプテンを打診された1年前はこう思った。「嫌や。やりたくない」 ◇託されたチームの主将 2023年11月、前回大会の出場権をかけた大阪府予選決勝で常翔学園は敗れ、連続出場は8で止まった。 2日後、登校すると白木繁之監督(36)に呼ばれた。部屋に入ると、主将を打診された。再建のためには、チームで唯一花園でプレーした経験が必要だった。仲間からは、ムードメーカーでありつつも感情的にならない人柄で、信頼されていた。 旧校名の大阪工大高時代を含め、全国高校ラグビー大会で優勝5回、史上3校目の大会通算100勝を達成した名門だ。OBである父の影響で、井本主将も6歳からラグビーを始め、伝統の濃紺に赤線のジャージーに憧れて、常翔学園に進んだ。 そのチームの主将になってほしいという。「目立ちたくない。人前に立つのが好きじゃない」と悩んだ。支える方が性に合っているとも思ったが、監督の頼みは断れなかった。 翌日、部室に集まった新チームの約70人を前に、正直に気持ちを伝えた。「プレーで頑張るから、他のサポートはみんなでしてください」。全員から拍手が起きた。 まず仲間に伝えたのは、第104回大会に出場できなかったら、チームが「暗黒期」に入りかねないということだった。自分が卒業したら、花園を経験した部員はいなくなるからだ。 ◇迫られた変革、新体制に奮起 変革を迫られていた。部員の不祥事で、長く監督を務めた野上友一さんが辞任し、競技歴のない平池三記さん(現部長)が後任に。23年の府予選決勝で敗退後、当時ヘッドコーチだった白木監督による新体制がスタートした。 就任1年目で重い課題を背負った白木監督への思いもあった。「僕らの前では見せないけれど、白木監督もしんどい、つらい思いをしてはると思う。全国優勝して胴上げして、恩返ししたい」と奮起した。 2年ぶりに花園に戻ってきた常翔学園。「プレーで頑張る」。井本主将はその言葉を、今大会で体現してみせた。初戦(2回戦)の高知中央戦や準々決勝の大分東明戦では先制トライを挙げ、プレーで仲間を引っ張った。 準決勝を戦った東海大大阪仰星(大阪第2)は、23年の府予選決勝で敗れた宿敵だ。後半20分で17点のリードを許したものの、3点差まで詰め寄り、ノーサイド。この日、NO8はトライを奪えなかった。 これまで感情を表に出してこなかったが、腰に手を当て、しばらく唇をかみながら、うつむいた。「ありがとう」と白木監督に声を掛けられた。目は真っ赤だった。 「キャプテンをやっていて、チームを勝たせられなかったのは申し訳ないです」。インタビュー中は、一言ずつ選ぶように語った。「いろいろあったけれど、みんなでここまでこられたのは良かった。白木監督には感謝しかないです」【大坪菜々美】