名建築とアップルパイを心ゆくまで堪能、Penおすすすめの青森旅【弘前編】
2.弘前れんが倉庫美術館
ランチの後は、今回のいちばんの見どころである、美しい煉瓦造りの佇まいで名高い「弘前れんが倉庫美術館」へ。19世紀にりんご園として出発した土地で、20世紀にはシードル工場やニッカウヰスキーの倉庫として地域に根差してきた歴史的建造物だ。2000年代には、当時、煉瓦倉庫を所有していた吉井酒造と弘前市出身のアーティスト・奈良美智の出会いにより、奈良の展示会が三度にわたり開催された。多数の市民ボランティアのサポートにより実現した展示会が大きなきっかけとなり、美術館として改修されることが決定。さらに、東日本大震災を乗り越えた弘前市の人々の願いを受け、美術館として改装が決定。パリを拠点に世界的に活躍する建築家・田根剛を迎え、2020年に新しい美術館としてオープンした。これまで小沢剛、池田亮司、大巻伸嗣、松山智一の個展やグループ展を開催し注目されてきた、街のランドマークだ。 メインとなる企画は、写真家・映画監督の蜷川実花が、データサイエンティストの宮田裕章、セットデザイナーEnzo、クリエイティブディレクター桑名功らと結成したクリエイティブチームEiMとの協働により実現した大規模な個展。吹き抜けの展示空間では、インスタレーションが展開され、咲き誇る花々と枯れて散りゆく花々をひとつの生命体のように融合させる。 展示のクライマックスは、2022年より弘前のほか各地を訪れ、刻一刻と変化する桜の姿を収めた作品群。蜷川にとって花の中でも特別な存在だという桜の魅力とは、束の間に姿を変える儚さだ。幼少期から父(演出家の故・蜷川幸雄)の仕事場である虚構の世界で遊び、光と闇を等しく探求してきた蜷川の制作姿勢があますところなく表現されている。
弘前れんが倉庫美術館の見どころ2 『弘前エクスチェンジ#06「白神覗見考(しらかみのぞきみこう)」』
もうひとつの企画は、津軽平野を流れる岩木川源流の地「白神山地」をテーマに行われるリサーチプロジェクトだ。多種多様な動植物の生息・自生が保たれながら、市街地とも地続きであるこの土地に4組のアーティストたちが着目する。いずれの作家の創作活動も、人間と自然という二項対立的な価値観を脱し、人間中心ではない世界の捉え方を提示してくれる。 狩野哲郎は、白神山地が世界自然遺産に指定されたことで、そこに暮らしていた人や動物に及ぶ変化を探り、鳥や虫など人間以外の生物の視点を意識した立体作品を展開。永沢碧衣は自身の狩猟経験をもとに、熊やニホンジカなど野生動物と人間の共生を想像させる絵画を展示した。佐藤朋子は、弘前での滞在やアジア各都市での遠隔になるリサーチの成果をアップデートしていく。会期末3日間にはイベントが行われ、L PACK.は夏祭りの「宵宮」に触発された体験型作品を発表。青森5館を巡回する栗林隆の『元気炉』も登場しクロージングを盛り上げる。 弘前れんが倉庫美術館 青森県弘前市吉野町2-1 TEL:0172-32-8950