健康診断はなぜ会社の義務か? 意味理解し上手に活用を 健康経営の新時代(7) 健康企業代表・医師 亀田高志
コロナ禍後、意義増す健康診断
2017年3月から本格化した働き方改革ですが、主要な目標の一つは長時間労働の抑制とそれに関係するいわゆる過労死等の健康問題の防止でした。様々な経緯を経て、今年の春からは社会的な機能を担う面が強い運輸業、建設業、そして医師に対しても、労働時間の上限規制の猶予が終わり、厳格な管理が開始される予定です。しかし、いずれにおいても容易に仕事がうまく整理でき、業務量の調整ができるわけではないでしょう。 これらの業種、職種以外でも3年以上にわたった新型コロナウイルス感染症の影響から解放され、経済状況が改善するにつれて多忙を極める読者も少なくないのではないでしょうか。 長時間労働を行うことで過労に加えて、睡眠時間が減少しがちになります。その結果、血圧が上昇し、脳卒中や心臓発作を起こしやすくなる、だからこそ、週40時間労働で換算した場合に週の時間外労働が20時間超、月間で80時間超は「過労死ライン」と呼ばれます。 これからの10年、20年を考えた場合、脳卒中や心臓発作以外に腰痛や特に女性の場合には更年期症状から更年期障害を持つ人が増えてくるでしょう。そうした病気や症状も労働時間を含めた仕事の負担や作業の仕方によって、悪化する可能性があります。 腰痛に関しては重量物を扱う等の作業に従事する人への健康診断が厚生労働省による指針の中で求められ、腰痛を生じさせない、悪化させない就業上の措置が強調されています。また、女性の健康課題への対応を含む健康診断の見直しに関する識者による検討会も昨年末の12月から厚生労働省でスタートしています。恐らく定期健康診断における問診の充実等を通じて、就業上の措置にもつなげていく流れを確保していく方向性となるでしょう。 ご自身の持病や日頃から感じている症状があれば、定期健康診断の機会を利用して、医師に伝えていくのがよいと思います。それらを悪化させないために、働き方の調整や適切な治療に結び付けていくことが、これからの職場が定期健康診断を行うことの更なる意義になっていくのではないでしょうか。
亀田 高志(かめだ・たかし) 労働衛生コンサルタント、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医