健康診断はなぜ会社の義務か? 意味理解し上手に活用を 健康経営の新時代(7) 健康企業代表・医師 亀田高志
残業禁止や出張制限の措置も
健康診断で血圧が高いと判定された場合、生活習慣の改善や降圧剤による治療を勧められるでしょう。上の血圧を収縮期血圧と言いますが180mmHg以上では、脳卒中、腎不全や心筋梗塞等の心臓発作の確率・リスクが8倍以上に跳ね上がります。さらに暖冬であっても、秋、春と比べると、さらに血圧が上昇します。 血圧が高いことだけでは症状を感じないことが多いのですが、血圧の管理が悪いために、特に中高年層では、重い病気になってしまう人がしばしば出てきます。例えば、脳出血が起きると、その出血が起きた脳の部分や周囲の組織が損なわれ、その部位が担っている仕事や日常生活での活動が難しくなります。言葉を理解し、スムーズに話すこと、手足を動かすこと、歩くことができなくなるケースが少なくありません。その障害を元通りにすることは現代の医療技術ではほぼ不可能であり、障害を抱えながら、職業生活と日常生活を送っていくことになります。 仕事ができる人ほど、昭和の価値観を持ちつつ、業績を上げるため、職位にふさわしい働きをするため、また将来のためにも幹部に評価されたいと頑張ってきたのかもしれません。けれども、脳出血になる直前に残業を繰り返していたなら、結果的に過労死等に該当しうるケースとして、ご家族、ご本人も捉えるようになります。愛着を持ち、貢献してきた職場との関係が決定的に悪いものに変わってしまうのです。 そういった事態を避けるために、職場側は血圧が非常に高く脳出血を起こす可能性があると医学的に判断された場合には、産業医等の医師の意見に従い、高血圧の治療を始めて、脳出血等のリスクが低い状態に戻るまで、残業を禁止したり、出張を制限したりすることになります。この制限を行うかどうかの健康診断後の判定を「就業区分」と呼び、実際の制限を職場の上長や人事部門の関係者が行うことを「就業上の措置」と呼びます。 定期健康診断を会社が行う一番の目的は就業区分に従って、就業上の措置の要否を判断し、発病したり、悪化したりさせないために、就業上の措置を行うことなのです。