『おむすび』神戸出身・新納慎也がもたらすリアリティ キムラ緑子の静かな涙の意味とは
美佐江(キムラ緑子)の涙に込められた複雑な感情
その思いが投影されているのが、孝雄という役だ。結や聖人(北村有起哉)が集会所での打ち合わせで話していたように、立ち直る時間は人によって違う。それは野菜の収穫までの時間が違うように。真紀を震災で失ってから時間が止まってしまっていた孝雄だが、聖人や歩(仲里依紗)、さらに仲違いとなっていた美佐江(キムラ緑子)の声がけもあり、防災訓練の会場に姿を見せるのだった。 結から受け取るおむすびと「おいしいもん食べたら悲しいことちょっとは忘れられるけん」という言葉、そして美佐江の娘・菜摘から受け取る震災当時助けられたお礼は、孝雄にとっての過去の肯定。そのことで前に進めるかは、孝雄次第だが、それでも小さな一歩目を踏み出したことが、おにぎりを頬張る緒形の芝居から感じ取れる。 またこの第50話で印象的だったのは、美佐江。彼女は震災から前を向いている側の人として表向きは描かれているが、実は兄夫婦を震災で亡くし、菜摘も九死に一生を得ている。集会所で美佐江が見せた一筋の涙、孝雄がおにぎりを頬張るのを離れた場所で見つめる美佐江の安堵した表情。震災をきっかけに関係性がこじれてしまった複雑な感情を、美佐江を演じるキムラ緑子がさりげなく芝居の中に込めていた。
渡辺彰浩