「ママ友と離れるとホッとする」その関係は問題あり!コミュニケーションのエラーに気づくには
「つながったふう」で終わらないコミュニケーションの深度
――自分の感情や気持ちに気づいた後は、どうしていくとよいのでしょうか。 岩田「自分の心のうちを話すことがすごく重要になると思います。私の講座にいっらっしゃる女性たちも、その場で自分の気づきを語ると最初と最後とでは別人かと思うほどスッキリした表情になります。 講座内ですべての課題が解決するわけではありませんが、こんなことに悩んでいて、本当はこうなりたい」といったことを話すことで、問題を“手放す”ことにつながるのだと思うんです。 下向「相手に話すことで、自分の気持ちを客観視でき、心の内が整理されていくのでしょうね」 岩田「そうですよね。ただ、上っ面な会話だけでは解消されないとも思っています。私は会話には5階層あると考えていて、レベル4・レベル5の深度で話をすることで鬱々とした気持ちの解消につながっていくと考えているんです。 レベル1が天気の話や近所のおいしいパン屋さんの話など。レベル2が噂。“2丁目の◯◯さん、今、仕事が大変らしいわよ”といった話題。レベル3が仕事の話。ママ友の間では、“事務をやっています”や“出版関係です”くらいで詳しく仕事の話をしない場合も多いです。そんな中で、どのような仕事で、どんな役割を担っているのかなどの話題ができること。 レベル4が“こんな資格取得に挑戦しようと思っていて”“転職しようと考えている”といった自分が挑戦しようとしていることです。完成していない自分をさらけ出せたり、できていないことを言えたりすることがポイントです。そして、レベル5が自分の価値観や信念について。たとえば、“こんなことを大切に生きている”“人生においてこれを大切に生きたい”などの話です。 大半の人はコミュニケーションは取っているものの、レベル1やレベル2で終わってしまうことが多いため、つながった感覚を得ることができません。それどころか、誰かと話をして、かえって疲れてしまうケースもありますよね」 下向 「“つながったふう”で終わってしまうのでしょうね。SELでは、特にソーシャルスキルの部分で、人と信頼し合いながらつながって生きていくことが重視されています。心理学では、この信頼関係を構築することを“ラポール形成”と呼び、そこにも5つの段階があるといわれています。 1段階目が“警戒”。相手が敵かどうか見極めているようなフェーズです。2段階目は“疑心”。攻撃はしてこなさそうだけれど、どんな存在なのかわからないので自分からは踏み込んでいきません。3段階目は“親和”。自分の大切にしていることなどを言い合える関係性です。4段階目は“信用”。この段階になると、何か意見が違っていたとしても言い合える存在になっていきます。そして、5段階目が“信頼”。相手に対して、謝罪や感謝を率直に伝えられる関係性です。たとえ、相手に不利益になるようなことでも素直に話し合うことができます。 岩田さんのいうレベル1や2のコミュニケーションでは、“警戒”や“疑心”から抜け出せていないですよね。だから、心安らぐどころか疲れてしまう。忖度なく自分が不都合なことでも話せるようになったり寄り添い合うコミュニケーションを取れるようになったりすると、関係性が深まっていきます。 ――踏み込んだ関係性を築けず、悩んだり孤独が埋まらなかったりする人も少なくないように思います。 下向「そもそも、そこまで深い関係性の領域が存在すると思っていないケースもあるように思います。あるいは、子どもたちに多いのですが、少し踏み込んだ関係性になることに対して、“面倒くさい”“ダルい”と感じている人もいます。その結果、家族とも友達ともレベル1と2の会話しかしていないことも少なくありません。 岩田「誰とでも信頼関係を築いて、レベル5の話をできるようにしろということではなく、“この人ならば”という特定の誰かを見つけられるといいですよね。また、少し踏み込んだ話をしてみて、“あれ? やっぱり違うかも?”と思ったら、元のレベルに戻せばいいんです」 下向「おっしゃる通り、“誰とでも仲良くしろ”ということではないと思います。それに、“この話題には触れられたくない”と思ったら、それを排除するという選択肢は誰しもが持っています。“この人とはこんな関係性を築いていきたい”と選び取っていくことは、自分のウェルビーイングを実現する上で大切なスキルではないでしょうか」 岩田「無理をしながら付き合えば、そのひずみが家庭など親しい関係に出てしまいます。毎日、イライラしたりキリキリしたりしていては、親子関係にもパートナーシップにも悪影響を与えてしまいます」 下向「自分の機嫌は、パートナーや子どもにどんな影響を与えると岩田さんは思いますか?」 岩田「上司と部下の関係性で考えるとわかりやすいのですが、上司がいつもイライラしていたり軸がなくておろおろしていたりしたら、部下は仕事で挑戦して高いパフォーマンスを上げようと思うでしょうか。 イライラしていたり、おろおろしていたりする人が近くにいるだけで、エネルギーが目減りすると思いませんか。数値としてエビデンスが出ているわけではありませんが、イライラしてる人からは“ちょっと離れておこうかな”と思う人も多いのではないかと思うんです」