大事なことは「自分にとっての最適な緊張感」を知ること。調教師・福永祐一の教え
コラム執筆もストレスになり…
あとはやはり、表に出る職業とはいえ、自分も感情のある人間。自分のことを悪く言っている意見を目にすると、嫌な気持ちになる。見なければいいと思うかもしれないが、今の時代、それもなかなか難しかった。競馬の奥深さ、本質的な面白さを伝えたいと思って始めたコラムだが、いつしかそれがストレスになっていたことに気づき、“伝える”という役目は2018年に卒業することにした。自分のやるべきことに専念したからか、以降はそれまで以上にジョッキーという仕事に集中できたような気がする。 ただ、間接的とはいえ、ファンとやり取りできたことで、いろいろと勉強になったのも確かだ。やらなければよかったと思ったことは一度もなく、今ではむしろ、一つの経験としてチャレンジしてよかったと思っている。
自分にとっての「最適な緊張感」を知る
欲と共に、コントロールが必要なことといえば緊張だが、緊張したほうがパフォーマンスは上がるという人もいれば、まったく緊張しないほうがいいという人もいる。 だからこそ大事なのは、最も集中力が増して、精神的にも肉体的にも一番良いパフォーマンスが発揮できる、「自分にとっての最適な緊張感」を知ることだ。 とはいえ、さまざまなシチュエーションで多くの経験を積まないとベストは見えてこない。そのときどきの緊張感とパフォーマンスを記憶に刻みながら、自分のベストを探し続けることが大事だと思う。 自分はデビューして早々に頭が真っ白になるという過度の緊張状態を経験したおかげで、以降は引退まで一度も緊張に飲まれてしまうことはなかったし、比較的早い段階で、あまり緊張しないほうがパフォーマンスを発揮できるという自分の最適解を見つけることができた。 準備不足による不安が緊張につながることをキングヘイローで学んだので、海外で初めての競馬場で乗る際などには、コースレイアウトや馬場の特徴を頭に叩き込み、同じレースに出走する馬の情報も全部仕入れるなど、徹底した事前準備でできるだけ不安要素を取り除いた。あとは、深呼吸することで横隔膜を下げ、身体をリラックスした状態に持っていくことで緊張を逃がすこともあった。