急増する人工衛星が招く光害(ひかりがい)という脅威 満天の星が視界から消える?
天体望遠鏡で星を撮るときは、数十秒~数十分ほどシャッターを開けっ放しにして光を取り込むため、衛星が横切ると光跡が直線で写り、しま模様のようになってしまう。 2013年2月、直径17メートルほどの小惑星がロシアのチェリャビンスク州上空で爆発し、衝撃波で建物のガラスが割れて1500人以上がけがをした。小惑星を事前に発見する重要性はさらに増している。 ただ、衛星の光跡が画像に写ると、天体や銀河などの正確な明るさや形、軌道といった観測データがとれなくなる。そのため、小惑星が地球にどのくらい接近するのかも、計算できなくなるという。 日本のすばる望遠鏡でも、画像の10枚に1枚は衛星が写り込むという。日本の国立天文台の平松正顕・周波数資源保護室長は「衛星の数が今の10倍になれば、単純計算ですべての画像に人工衛星が写り込むことになる。観測をやり直す必要がでてくる」と危惧する。 一方で、人工衛星は、気候変動の調査や通信、遠隔地に住む人々の教育などに役立っている。スペースXは対策に取り組んでいて、スターリンク衛星の中には、表面を黒く塗装したり、特殊なフィルムを貼ったりして反射光を減らしているものもあるという。 ウォーカーさんは「打ち上げをやめてとは言っていない。責任を持って行動してほしいということだ。スペースXとは解決策を話し合ったこともある。他の衛星事業者にも働きかけている」という。
「宇宙の植民地化だ」専門家ら懸念
90以上の国・地域の天文学者たちでつくる国際天文学連合(IAU)は2022年、衛星コンステレーションから夜空を守るための新しい組織「衛星コンステレーションの干渉から暗く静かな空を守るためのセンター(CPS)」を立ち上げた。複数の衛星事業者も参加している。 ただ、衛星の光害は国際的な規制や担当する機関がないのが現状だ。国連の宇宙空間平和利用委員会で議論が始まったが、法整備や規制は簡単ではない。 「宇宙の植民地化だ」。2021年に米国で開かれた天文学のワークショップでは、北米の先住民が先進国が打ち上げる人工衛星の影響を、こう訴えた。 衛星通信は、田舎に住む先住民に遠隔医療などの恩恵をもたらす。一方で、先住民は農作物の収穫期や家畜の移動時期などを知るために、星の動きを見てきた。生活や伝統、習慣と結びつく星空が人工衛星によって失われると心配する。 ダークスカイ・インターナショナルのラスキン・ハートリーCEO(53)は言う。「私たち全員が共有する一つの空をどう利用するか。世界レベルの取り組みが必要だ。人工衛星がもたらす素晴らしさを享受しながらも、自然な暗い空を見上げられるように」
朝日新聞社