横浜流星・五変化『正体』──藤井道人監督が目指したリアリティと不変の“インディーズ魂”
■自分たちの過去を否定することはしない ──死刑確定囚の逃亡劇、さらに横浜さんの【5つの顔】を撮るといったハードルがある作品ですが、大きな挑戦だったと思うことはありますか。 僕はインディーズ映画の出身ですが、メジャー作品を撮るからといって、自分のスタイルを変えてまで新しい挑戦をするようなことはしたくないんです。それは、自分たちの過去を否定する行為なので、いままでのやりかたを踏襲したうえで成長していきたい。つねに着実に経験を積み重ねながらものを作っているからこそ、たとえ規模が大きくなったとしても、インディーズ時代から培ってきた基礎や大事にしてきた考えを変えずにやっていくかが重要なんですよ。おもねらない、迎合しない。そういう考え方の僕たちと仕事をする方々は大変かとは思いますが、「結果は出すので見ていてください」と言い続けられるものづくりをする集団でいたいんです。 ──ご自身のものづくりへのポリシーは、今後のエンターテインメント業界や映画界への思いと重なる部分はありますか。 今回はとても規模の大きな作品ですが、その座組に僕のようなインディーズ出身の監督を呼んでいただけたことはとても大きいと思います。だから、そのチャンスに応えたいんです。作品を観てさえもらえれば、僕らの伝えたいことはしっかり届くはずと信じて、制作にも宣伝にも力を入れました。 ■理解する、多面性が生み出すリスペクト ──監督がお持ちのそのポリシーを貫く心の強さはどこからきていますか。 多面性だと思います。自分から見た正しさは他人から見たら正しくないこともあるかもしれない。それを理解することが僕が思う多面性です。ものづくりを続けていくと、いろいろな人に出会います。そういった人たちを知れば知るほど、それぞれの正義が見えてきます。立場が変われば、言うことが前と変わる人もいますよね? それに対して「前はああ言ったじゃないか。あなたは間違っている」と考える時代は、僕にとってはもう終わりでいいと思っていて。考えが違うもの同士が対話すれば、リスペクトが生まれると思いますし、実際、考え方が違う者同士が集まっても、作品への愛やリスペクトが一つになっていく姿を何度も目撃しています。だから僕は、そこを信じたいなと思っています。