横浜流星・五変化『正体』──藤井道人監督が目指したリアリティと不変の“インディーズ魂”
──リアルの軸とフィクション、本作で特にバランスを意識されたシーンはありますか? 鏑木と警察官・又貫征吾(山田孝之)が対峙する取調室。いまの取調室はもうちょっと風通しがよい作りになっていますが、ここは、又貫の脳内を表現したいがための閉鎖的な環境にしています。実際の取調室を見た経験のある方は少ないと思うので、ここはフィクションでいいと割り切りました。やはり割り切れないのは肉体ですね。誰もが同じ構造の肉体を持っているので、そこは嘘をつけません。だから、髪の長さなどは綿密に考えているわけです。そのように、ひとつひとつの細かい設定にディレクションを入れています。 ■瞳で語る、時間軸を超えた姿 ──各キャラクターにテーマカラーの裏設定があるとお聞きしております。そこにはどのような意味がありますか。 “正体不明”の人物を描く物語である以上、主人公がどんな人間なのかを事象を追いながら観客をハラハラさせていくことが重要だと考えました。ただし、あまり「この人はこうだ」と決めつけない演出を心がけました。本作は色でキャラクターわけをするレンジャー作品ではないので、どういう思いでこの色を用いているという説明をしてしまうと、演者が「自分は何色の担当」と意識してしまいますから。なぜそのキャラクターにその色を差すのか、それは僕ら制作サイドが理解していればいい。俳優部がその色を使う意味を理解しないように努めながらその色が必然的に見えるように演出していくことは、結構おつな作業でしたね(笑)。 ──横浜さんが持つ“瞳の力”も演出面での大きなポイントとのこと。そこに着目した理由は? この作品の企画を受けたのは4年ほど前ですが、最初は“横浜流星・七変化”という提案があったんです。それを聞いて、いろいろな姿の彼が観られる作品はおもしろいのではないかと考えて取り組むことにしました。もともと、流星は瞳がすごくいい役者ですが、とくにここ数年は、言葉を使わずとも感情が伝わる芝居ができるようになっていたので。恋をしたり友だちとの触れ合いがあったり、辛かったり笑ったりというすべての流星の魅力が、彼の瞳や表情を通し、過去、現在、そして未来につながる姿として撮ることができたと思います。