「半導体確保は政治的問題」大統領が動くアメリカと出遅れる日本の“決定的な差”
かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著です。2023年7月26日発売の幻冬舎新書『買い負ける日本』は、調達のスペシャリスト、坂口孝則さんが目撃した絶望的なモノ不足の現場と買い負けに至る構造的原因を分析。本書の一部を抜粋してお届けします。第10回。
買い負けの現代的背景(1)政府の動き
ホワイトハウスでは2021年4月、ジョー・バイデン大統領が「CEO Summit on Semiconductor and Supply Chain Resilience(半導体のCEOサミット)」と名付けた決起集会を開いている。これはホワイトハウスと半導体・IT関連企業のトップを集めて開いたものだ。 ホワイトハウスのホームページでも内容を確認できるが、YouTubeで当日のバイデン大統領の様子を見ると、わざわざ半導体のウエハーを左手で取り関係者に「これがわれわれのインフラストラクチャーであり、多額の投資を行う」と宣言している。 石油や鉱物が眠っている場所は神様が決めたかもしれない。ただし、どこで半導体を生産するべきかは人間が政治的に決めるのだ。 さらに2021年9月23日に米国の商務長官であるジーナ・レモンド氏は半導体不足がボトルネックであるとし、代表的な半導体メーカーにたいして透明性を図るように伝えた。これは各社に需要量や在庫量などを開示するように求めたのだ。当然ながら契約情報などは機密にあたる。大きな反発は当然だった。 しかし、米国は世界の中心であり、強引な手法であっても世界の半導体メーカーの注意を米国に向けさせ、もし歯向かったら何が起きるかわからない、と思わせるにはじゅうぶんだった。 なおこの動きは一例で、他にも米国政権が半導体業界を牽制すると、ただちに米国の自動車メーカーが米国政府の姿勢に賛同し半導体各社に早急な納入を求める動きが多々見られた。官民が一致していた。 さきにも紹介した装置メーカーのサプライチェーン統括者は感心するように、そして呆れるように「米国政府は世界の半導体各社に米国優先の圧力をかけていた。あれだけプッシュするんだから強いですよ」と述べている。 同時に米国政府は、次々に半導体への投資を決定していった。研究や工場誘致、減税など、円換算で3~5兆円規模が次々に可決され、過激なほどだった。ただ半導体誘致にはそれほどの狂気が必要なのかもしれない。