目指すは「原子力開発の英アーム」!日本初のスタートアップ企業の挑戦
● 新原発が必要になるであろう 2035年を見据えた取り組み なぜ、大型の高温ガス炉(HTGR)を1基だけ造らず、小型の原子炉をあえてクラスター化するのか、疑問に思われるかもしれません。その理由は、3倍までのスケールアップであれば、既存技術の延長線上で設計できるという、工学的な判断です。さらに大型化を目指すと、改めて実証炉を建設して技術を検証しなければなりませんが、3倍であれば不要です。 クラスター化という発想自体は、珍しいものではありません。例えば、イーロン・マスク氏が率いる米スペースXのロケット「ファルコンヘビー(Falcon Heavy)」は、合計27基のエンジンで推進力を得ています。米テスラに限らず、電気自動車(BEV)では、一般的に規格化された数千個の小型電池を電源に用いています。クラスター化は、過去の技術資産を活用する有効な手段というわけです。 ちなみに、原子炉の熱出力を3倍にしたりクラスター化したりといったアイデアは、構想の一部でしかありません。私には、日本原子力研究開発機構(JAEA)在籍当時から温めていた現場課題の解決策や、創業後に交わした多くの方々との議論を通じて得た様々なアイデアがあります。 なぜ2035年を運転開始の目標時期にしているのかというと、国内では寿命を迎えた原発が次々と退役し始める時期だからです。 2022年12月、政府は条件付きで60年以上の原発の運転を認める方針を示しました。しかし、建て替えや新増設がなければ、原発が減り続ける流れは変わりません。さらに、この時期になると、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)の適用を終えた太陽光発電所が、電力系統から離脱する可能性もあります。2035年までに商品化が間に合えば、ビジネスチャンスをつかめる可能性があります。 2040年代に商品化しているようでは、需要の減退期に入るかもしれません。市場からリスクマネーを集め、開発スピードを高める必要があります。この辺は、前述した創業の動機につながってくる話です。 福島第1原発事故を経験した日本だからこそ、より安全性を高めた発電所を、より必要とされる時期に提供する意義があります。そう確信して高温ガス炉(HTGR)の商用化に取り組んでいます。
斉藤壮司/佐藤雅哉