目指すは「原子力開発の英アーム」!日本初のスタートアップ企業の挑戦
だから、最終的にHTGRを商用化するには、迅速に動けて資金調達できるスタートアップが必要だと考えたのです。昨今、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー調達リスクが認識され、原子力発電が再評価される風潮もありますが、これはあくまで外力でしかありません。こうした外力がなかったとしても、私たちがBlossom Energyを立ち上げる流れは変わらなかったでしょう。 ● 自社工場を持たずに知財を 提供する「アーム」型企業 私たちの会社をあえて一言で表現するなら、HTGRを設計するファブレスメーカーです。つまり、自社工場を保有しません。設計図を知財として提供したり、設計開発を受託したりするのが主な事業です。必要な実験があれば、外部の企業と協力して進めます。 ビジネスモデルで参考にしているのは、半導体設計会社の英アームですね。彼らは半導体設計のレファレンスを販売し、半導体メーカーから製造量に応じた収益を得ています。同じことが原子力分野でも可能かもしれません。1つの将来像として想定しています。 技術面でいうと、従来よりもスケールアップしたHTGRの提案を目指しています。HTGRは文字通り、従来の軽水炉よりも高温を取り出せる原子炉で、安全性も高められる点が重要です。 例えば、私たちが想定するHTGRのウラン燃料は、約2000℃の高温に耐えられるセラミックスで被覆された小球体です。仮に事故が起きて原子炉の冷却機能が失われても、この温度を超えなければ、放射性物質は閉じ込められたままです。 炉心の温度は、崩壊熱による発熱量から物理的に計算で求められます。安全性を考慮すると現実的には約1600℃が上限でしょうか。炉心の最大温度がそれ以下になるよう、燃料の数や炉心の構造を決定すればよいわけです。 こうした基本的な考え方は、高温工学試験研究炉(HTTR)をはじめ世界のHTGRで既に実証されています。主要技術の特許は1980年代に取得されましたが、今やその存続期間の多くが切れている状況です。私たちは過去の成熟した技術を基に、1基あたりの熱出力を約3倍にスケールアップした原子炉を設計し、さらに8基を束ねるクラスター化を目指します。