能登随一の温泉地「和倉温泉」が歩んだ地震後の10カ月半の記録…人気旅館は再建に向けた解体工事に着工
元日の地震以降ほとんどの宿が休業を余儀なくされている七尾市の和倉温泉。能登随一の温泉地が歩んだ10ヵ月半を追った。 能登随一の温泉地「和倉温泉」が歩んだ10カ月半
能登有数の温泉地「和倉温泉」
能登有数の温泉地として知られる和倉温泉。ピーク時には年間約150万人が街を訪れていた。しかし元日の能登半島地震で護岸が崩れるなど大きな被害を受けた。半数以上の旅館が海に面する和倉温泉。多くの建物が傾くなどして、今も21ある宿のうち一般客を受け入れているのは4軒だけだ。大きな被害を受けた宿の一つ「美湾荘」。当時のことを振り返り多田直未社長は「すごく揺れて『このまま生き埋めになるんじゃないか』って思いながら、ずっとマイクを握って『外に避難してください。エレベーターを使わないで階段で、暖かい恰好して外行ってください』って言っていました。死んでも仕方ないと思いました」と話す。 1月1日、従業員と共に180人ほどいた宿泊客を避難させた。幸いけが人はいなかったが、当時多田社長は「根本的な建て直しの工事が必要になるから内装だけでは済まないので。どこの旅館も全部ひどい、旅館を続けられるのかどうかすら分からないですね」と話していた。旅館の休業が続く一方、町は少しずつ復旧に向けて歩みを進めていた。2週間以上止まっていた温泉の源泉が再び湧き始めたのだ。 その後、総湯も再開。訪れた利用客は「待ち遠しかったよ」「よくここに来ていたので。温泉宿には泊まれないけどとりあえず総湯だけでも」と感慨深い様子だった。
ようやく始まった護岸工事
6月下旬。美湾荘に大きな動きがあった。「こうやって目に見える形で始まった工事って一つもなかったのでうれしいですね。少しずつ始まっているなって感じで」と話す多田社長。地震の影響で崩れてしまった護岸の一部を直すための調査がこの日から始まったのだ。 「和倉温泉は七尾湾と能登島のこの景色が本当に素晴らしいので、早く直ればいいなって思っています」復旧業者の宿泊は可能となったが、一般客の受け入れ再開にめどが立たない中、多田社長はある決断をした。「まさか壊すまでいっていないと思っていたんですけど、建築会社の診断も聞いて」旅館の一部を解体し、数年後にリニューアルオープンすることにしたのだ。「壊れるのは悲しいけどやらないと次に進めないので仕方ないと思っています」 地震から10カ月、多田社長はあるイベントに向け準備を進めていた。「会社の中、旅館の中を整理していてお皿がたくさん割れてしまって、数が半端になってしまって旅館で使うには足りないんだけれども、ちゃんと使えるお皿とかそういったものをどなたかに使っていただけるといいのかな」イベントの名前は「和倉復興めぐる市」。各旅館で使わなくなったものを持ち寄って、フリーマーケットを開くことにしたのだ。