「数千年に一度」海底隆起の能登漁港、復旧は東日本以上に困難 岐路に立つ漁業者ら
能登半島地震では、海底が隆起するなどしたことで港に大きな被害が出た。北陸有数の水揚げ量を誇る輪島港(石川県輪島市)も漁に出れない状態が続いたが、地震から10カ月が経過した11月からようやく漁を再開する。ただ、地形が大きく変化したため地震前と同じように漁ができるかは依然として不透明で、漁業関係者らはもどかしさを抱えながら漁業存続に向けた道を模索している。 【地図でみる】能登半島地震による石川県の漁港と港湾の状況 ■今年の漁獲ほぼゼロ 船を停泊する輪島港の船だまりでは10月下旬、隆起した海底を掘る重機の音が響き、漁業関係者の姿はまばらだった。地震前は約200隻の船が行き交い、活気にあふれていたが、約10カ月にわたり漁ができない状況が続く。 漁師の松下正寿さん(66)は「今年は一度も漁をしていない。11月から刺し網漁を開始したいが、この状況を見るとどうなるかは分からない」とため息をつく。 1月1日の地震で輪島港や周辺の港は海底が隆起。輪島港では1・5~2メートルの隆起が確認され、船が走行できなくなったほか、荷さばき所の損傷や船を係留する物揚げ場も大きな被害を受けた。 定置網漁や底びき網漁、刺し網漁などの拠点となる輪島港。獲れた魚は全国に出荷され、日本の食文化を支えている。石川県漁業協同組合輪島支所によると、令和4年度の販売取扱数量は6177トン。一方で5年度は今年1~3月に漁ができなかったため4852トンまで落ち込んだ。 同支所の上浜敏彦統括参事は「6年度は現時点でほぼゼロ。漁が再開できても、震災前の状況にすぐ戻ることもできず、魚の価格転嫁をしていかないと生活面で厳しい」と話す。 ■受け入れ態勢追いつかず 国は船が動ける十分な水深を確保するための一時的な措置として土砂を掘り出す工事を7月に完了。残りの部分は県が掘り出し作業を進めており、現在は国が工事を終えたエリアに船が密集している。 10月中に物揚げ場の仮の復旧工事が終わり、船を係留するスペースが拡充。桟橋での荷揚げ作業などが可能となったことで、11月6日のカニ漁解禁を皮切りに漁を本格的に再開していくという。 ただ、現在はあくまでも仮復旧の段階。ある漁師は「漁に出て魚を獲っても、港で受け入れる態勢が全然追い付いていない」とこぼす。地震前と同じ水深まで掘ったり、共同利用施設を新設したりといった以前と同じような環境に戻す本格的な工事は、完了の時期が見通せていない。