卵だいすき! 福岡県飯塚市で鶏の平飼いに挑む「ママ農場長」の夢
卵への情熱が実り、昨年、夢の「農場長」になった女性が、福岡県飯塚市で奮闘中です。2児のママでもある山﨑登希代(みきよ)さん(28)で、狭いケージで飼う主流の方法とは異なる「平飼い」で鶏を育てています。今春から独自ブランド「あかねの虜(とりこ)」を立ちあげ、アニマル・ウェルフェア(動物福祉)の観点を重視する大手ホテルやスーパーとの取引を開拓するなど、注目を集めています。 【動画・写真】鶏と卵が大好きな農場長
「子どもみたい」あふれる愛
「かわいいでしょ。子どもみたい」――。5月下旬、飯塚市馬敷のあかね農場。山﨑さんが小屋の扉を開けても、鶏は慌てて外に出ようとはせず、「コー」と優しい鳴き声で鶏舎内を歩いていました。「ストレスが少ないと、鶏たちも穏やかなんです」。そう言って1羽を抱き寄せると、山﨑さんは満面の笑みを浮かべました。 この農場は元々、福岡県内を中心に居酒屋を展開する企業のグループ会社が管理・運営。昨年夏、ベンチャー企業のメメント(福岡市)が運営に関する相談を受け、同社の一員だった山﨑さんが農場長を任されることになりました。 「平飼いは特に広い土地が必要で、養鶏場を新設するのは難しい。運良くこの環境を得ることができ、平飼いに取り組めてありがたいです。経験を生かしながら工夫を重ね、愛情を込めて育てたい」
1個を4人で分けた少女時代
朝倉市で生まれ育った山﨑さんは、母子家庭の4人姉妹の長女。仕事が忙しく体調を崩しがちな母に代わり、幼い頃から妹3人の世話をしました。友人と遊ぶために、捕まえたカブトムシを売ってお金を工面することもあったそうです。 大好物の「卵かけご飯」をつくる時も、当時は1個を溶いて姉妹4人分のご飯に分けていました。1人1個ずつ、カパッと割って食べてみたい――。高校を出て家電販売店に就職すると、幼少期の憧れから「おいしい卵」をネットで検索し、各地から取り寄せるようになりました。 結婚や転職、2度の出産、引っ越しなど人生の様々なステージを経ても「卵集め」は継続。「いろいろな卵を食べるうちに『平飼い』がおいしい、と気づきました」。取り寄せた卵の資料をファイリングしたり、近郊の養鶏場を訪ねたり、「生産する側」への関心を高め、2022年に大刀洗町の自宅の庭に鶏小屋を自作。孵卵(ふらん)場から購入したヒヨコ8羽を飼い始めました。 知り合いの養鶏農家らに尋ねて温度管理などを工夫。餌の素材には特にこだわり、県内外の企業に直談判して良質なおからや無添加の魚粉などを仕入れました。 23年4月、養鶏場巡りでできた知人から「今を一生懸命、生きるプロ集団をつくりたい」との話を聞き、「人生を懸けてみよう」と入社したのがメメントです。数か月後に、農場長を任されることになりました。