上畠菜緒『イグアナの花園』を大森 望さんが読む(レビュー)
人間とはいかに“ヘンな生き物”であるか
第32回小説すばる新人賞を受賞したデビュー長編『しゃもぬまの島』から四年。上畠菜緒の待望の第二作『イグアナの花園』が刊行される。架空の動物(中型犬サイズの馬)が主役だった前作に対し、今回の主役は爬虫類。前半ではアオダイショウ、後半ではイグアナが軸になる。 人間の主人公・八口美苑(やつぐちみその)は、研究に没頭する植物学者で大学教授の父と、おそろしく厳格な華道の先生である母親との間に生まれた一人娘。小動物の声が聞こえる不思議な力を持つが、子供の頃から人付き合いが苦手で、友達がいない。小学四年生のとき、傷を負ったアオダイショウの『助けて』という声を聞き、父親の同僚の生物学者・児玉(こだま)先生の手を借りて命を救う。やがて回復した彼女は、人間を「ヘンな生き物」と呼びつつも、美苑のかけがえのない友となるが……。 個性的な少女の成長を描く過去パート(全体の三分の一弱)を経て、小説は十四年後に飛ぶ。二十四歳になった美苑(=私)は、児玉先生の行動生態研究室に所属し、修士課程の大学院生として大型インコの言語学習に関する研究をしている。十四年前に児玉先生から託されたグリーンイグアナのソノと、父親が遺したアトリエに住み、平穏な日々を送る美苑。だがある日、母親に呼び出され、驚愕の通告を受ける。母の体に癌が見つかり、おそらく余命は半年。その半年の間に結婚相手を見つけろ。さもないとアトリエを失うことになる……。 というわけで、絶体絶命のピンチに陥った美苑の婚活大作戦がメインストーリーになる。ソノのアドバイスでマッチングアプリに登録し、研究室の後輩の指導を受けてプロフィールを書き直し、対人スキル向上のために研究室の飲み会に参加し――という涙ぐましい努力と爆笑ドタバタ劇は果たして実を結ぶのか? 美苑の婚活は、人間とは何か、家族とは何かを学ぶ過程であり、同時に人間とはいかに“ヘンな生き物”であるかを読者が発見する物語でもある。なんともユニークで心温まる爬虫類+ヒューマンコメディだ。 大森 望 おおもり・のぞみ●書評家、翻訳家 [レビュアー]大森望(翻訳家・評論家) 協力:集英社 青春と読書 Book Bang編集部 新潮社
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