北陸新幹線開業27年! 長野県「佐久市」が繁栄し「小諸市」が衰退した理由とは?
小諸が「地方駅」へ転落した瞬間
一方、打撃を受けたのは小諸市だ。 かつてJR小諸駅は信越本線の特急が停車する交通の要所で、東京との直通運転で首都圏への玄関口としての役割を果たしていた。この利便性が、小諸市を地域の中心都市にしていた大きな要因だった。 しかし、新幹線が開業すると状況は一変する。信越本線は第三セクターのしなの鉄道に移管され、軽井沢~横川間は廃止された。その結果、小諸駅は特急停車駅としての地位を失い、首都圏との直通アクセスもなくなり、 「単なる地方駅」 に転落してしまった。交通の不便さが影響して、訪問者数が減少し、それにともなって購買力も落ち込み、市の商業に大きなダメージを与えた。新幹線開業前は、小諸市は佐久地方の商業中心地として栄え、市民の約8割が市内で買い物をしていた。 しかし、新幹線開業後、佐久市に大型商業施設が進出すると(後述)、市民の購買行動は佐久市に移り、小諸市の商圏は急速に縮小。これにより、ジャスコ、ながの東急、サンフルホームセンターといった大型店が次々と撤退していった。 2018年には、市街地にあった地元スーパーマーケットチェーン「ツルヤ」小諸店が老朽化を理由に一時閉店。再開予定も不明で、大きな騒ぎになった。 観光業にも影響が出た。特急の直通アクセスがなくなり、首都圏からの観光客が激減。小諸市の代表的観光地「懐古園(小諸城址)」は、新幹線開業前は年間100万人以上が訪れていたが、2022年の来場者数は18万5456人にまで減少している。 懐古園は桜の名所100選や日本の名城100選にも選ばれ、美術館や博物館、動物園などがそろう観光施設だが、交通の不便さが観光客の減少を招いている。 このように、北陸新幹線の開通は小諸市に ・交通アクセスの悪化 ・商業の衰退 ・観光客の減少 といった多方面で影響を与え、市の衰退を招いた。
佐久市の商業進化、数値で見る活性化
一方、新幹線駅が設置された佐久市は、どのような変化を遂げたのだろうか。 佐久平駅の開業により、佐久市の交通利便性は向上し、大型商業施設の進出が相次いだ。1999(平成11)年には、イオンモール佐久平(当時はイオン佐久平ショッピングセンター)が開業し、甲信地方で最大の店舗面積を持つ商業施設として注目を集めた。地域の発展は今なお続いている。 2022年には、佐久平駅近くにホームセンターのカインズ佐久平店や、A・コープファーマーズ、蔦屋書店などが入居するフォレストモール佐久平がオープンし、さらに活性化が進んだ。人口も増加し、2015年には駅東側の岩村田小学校の児童数が1000人を超えたため、新たに佐久平浅間小学校も開校し、こちらも800人を超える児童が在籍している。 こうした佐久平駅周辺への商業や人口の集積により、商圏の構造は大きく変わった。2021年の『長野県商圏調査』によると、商圏の実情は次のとおりである。 ●小諸市の商圏(全品目平均) ・商圏人口:6万2200人 ・県内市町村人口:3市町村 ・地元滞留率:39.8% ・吸引人口:1万9542人 ・吸引力係数:47.8% ●佐久市の商圏(全品目平均) ・商圏人口:23万9303人 ・県内市町村人口:19市町村 ・地元滞留率:84.1% ・吸引人口:13万39人 ・吸引力係数:187.4% 「地元滞留率」は、特定の地域に住む人々がその地域内でどれだけ消費しているかを示す指標だ。数値が高いほど、地域住民が地元の商業施設やサービスを利用する傾向が強いことを意味する。例えば、地元滞留率が84.1%であれば、地域内の住民の約84%が日常的な買い物やサービスを地元で行っていることになる。 「吸引人口」は、特定の商圏に他の地域から訪れる人の数を示す。この指標は、商業施設やサービスが周辺地域からどれだけ顧客を引き寄せているかを示し、地域経済の活性度を測るための重要な要素となる。吸引人口が多いと、商圏の魅力や集客力が高いと評価される。 「吸引力係数」は、特定の商圏が周辺地域からどれだけ顧客を引き寄せているかを示す指標だ。この係数は、商圏内の人口と吸引人口の比率から算出される。吸引力係数が100%を超える市町村は、居住人口よりも吸引人口が多く、その地域の商業において重要な役割を果たしていると考えられる。 さらに、この調査では全品目平均で小諸市から佐久市への流出率が47.6%とされており、佐久市には流出先がないことが明らかになった。 これらのデータから、小諸市の商圏は佐久市の商圏に包み込まれていることがわかる。特に、小諸市では飲食料品の地元滞留率が87.9%と高い一方、衣料品の地元滞留率は30.6%と低く、流出率は57.6%に達している。このことは、小諸市民が日常の買い物において多くの消費を佐久市に依存していることを示している。