北陸新幹線開業27年! 長野県「佐久市」が繁栄し「小諸市」が衰退した理由とは?
新幹線喪失からの再生
一方、新幹線の誘致に失敗して衰退したとされる小諸市では、再生に向けた取り組みが本格化している。この再生の特徴は、市民と行政の協力による都市再生の努力にある。 市民レベルでは、2019年に地域住民の危機感から生まれた「おしゃれ田舎プロジェクト」がきっかけとなった。このプロジェクトにより、かつてシャッター通りになっていた駅前の相生町商店街に新たな活気が生まれ、1階の店舗スペースがほぼ満室になるまでに復活した。 また、行政も約10年かけて「コンパクトシティ構想」を着実に進めてきた。2021年8月には、総事業費約26億円をかけた複合型中心拠点施設「こもテラス」がオープンした。この施設には、スーパー「ツルヤ小諸店」(一時閉店後の再開)や公共交通ターミナル、市民活動・ボランティアサポートセンター、高齢者福祉センターなど、さまざまな都市機能が集約されている。 この構想は、2040年には約3万2600人に減少すると予測される人口や、42.8%に達するとされる高齢化率を考慮したものだ。高齢者が中心市街地で生活に必要な用事を一度に済ませられる環境を整えることで、市民の利便性を高め、地域全体の活性化を図っている。 実際、中心市街地には市立図書館や市民交流センター、新庁舎、医療センターなどの公共施設が集まり、コンパクトな都市構造が形成されつつある。さらに、予約制の相乗りタクシー「愛のりくん」の運行時間を拡大し、周辺地域とのつながりを強化する取り組みも行われている。 このように、小諸市は新幹線という高速交通網を失った代わりに、歩いて暮らせるコンパクトな街づくりという新たな都市像を模索している。
「一極集中のわな」佐久市の苦悩
一方、佐久市も繁栄の偏在を問題視し、現在は立地適正化計画を進めている。 この計画では、佐久平駅周辺、野沢地区、中込地区の三つを都市機能誘導区域として設定している。医療、福祉、商業などの都市機能を集約し、公共交通で結ぶことでコンパクトシティを目指している。しかし、実際には佐久平駅周辺にさまざまな施設が集中し、利便性が高いため、3極の均衡ある発展は容易ではない。 こうして見ると、新幹線誘致の「勝敗」が必ずしも両市の明暗を分けたわけではないことがわかる。むしろ、勝者とされた佐久市は駅周辺への一極集中といういびつな発展に直面し、敗者とされた小諸市は危機を機にコンパクトシティ化を着実に進めている。 今や小諸市を 「新幹線が来なくて衰退した街」 と考えるのは古い考え方だ。最近では、逆境をバネにアニメの聖地をテーマにした誘客を図るなど、さまざまな方法で復活を目指している小諸市の動きは目を引く。問題点としては、老朽化によるもので仕方がないとはいえ、懐古園の「草笛小諸本店」を建て替えてしまったことくらいだろうか。 そういえば、佐久市のロマンス座も長い間閉館しているが、今でも 「ロマンス座の近く」 「ロマンス座の実家」 といういい回しが通じる。懐古趣味に浸るわけではないが、信越本線で碓氷峠を越えていた頃の素朴な佐久地方が懐かしい。
昼間たかし(ルポライター)