“女性の気持ちを描ける男性劇作家”の矢島弘一「ドラマと舞台は明確に違います」
◇舞台上だけではなく客席の演出も大事 ――脚本は劇団員の方に当てて、書いているんでしょうか。 矢島 : 当てています。外部の方でも当てて書きます。特徴として、なるべくイヤなやつに描かず、ダメなヤツに描きたい。「こういう人、いるよね」だったり、「この人、人生いろいろあったんだろうな」というふうに、面白おかしく描ければいい。 ソープランドで働く人が題材ということで、敬遠する人もいると思うんですが、僕は彼女の味方になってほしいので、そこはすごく意識して描きました。それは、どの作品でも、どんな女性でも同じです。 ――ドラマや映画の脚本も手掛けていますが、舞台との差はどんなところにありますか? 矢島 : ドラマと舞台は明確に違います。ドラマは、すぐチャンネルを変えられてしまうし、早送りされることもありますが、舞台は会場に閉じ込められた空間であるからこそできる演出があると思うんです。そこは確実に違います。舞台の話で言うと、タイムを計算しています。 人間が集中する時間って、自分の肌感覚で言うと18分。だから20分までに一度、注目できることを入れます。それは台詞ではなくて「あれ? この人、どうなっていくんだろう?」と興味を持たせ、次に30分くらいにもうひとつ山を作る。60分あたりに全員集合させて……と、時間を意識しています。 台詞も同じです。“この台詞を言わせたい”というときは、何分くらいに言わせるのか、大体の時間を考えて、それに合わせて作るようにしています。 ――そんなにシステマティックに構成されているんですね。 矢島:いつぐらいから始めたかは覚えていませんが、昔から考えていて、10年以上前からやっていたと思います。僕は舞台上の演出だけではなく、客席の演出も大事だと思っています。 我々、小劇場では名もない頃はナメられがちですし、映画と違いチケットは4000~ 5000円します。付き合いで来たような興味のない人たちが、どうしたら注目して観るようになるか考えました。 例えば、女性を何人か並べて最初にモノローグを語らせた場合、失礼ですけど男性の脳は単細胞なので、モノローグの内容よりも誰がタイプか探すんです(笑)。そして、その人が次に出てくる場面に目で追い、そうするうちに「あ、さっきの人だ。でも、こっちの人もかわいい」なんて思っているうちに物語に入っていく……。客席で“つまらない”と思われたら、その雰囲気って隣の人にも波及するんです。 それならと、お客さんが飽きずに観る戦略をあれこれ考えました。今はありがたいことに、作品をちゃんと楽しみに来てくれる人たちがほとんどになったので、あえて開演前は無音にして、これから何が始まるんだろうと、ちょっとドキドキさせながら、一言目はこれでスタートしよう。ここから10分間はセットアップ紹介しようって。 今回は主人公と娘の2人がずっと動くので、この2人の人間性を見てもらいたい。観客がどういう目線で観るのか意識しながら書いています。一方、テレビではその手法は使いません。チャンネルを変えられないよう、なるべく早めの早めの展開を意識します。 ◇死ぬまで脚本を書き続けることは決まってる ――矢島さんは作品の随所に野球を絡めてきますよね。 矢島 : 大好きなんで、すみません(笑)。今回の舞台には全く入れる予定がなかったんですけど……白状すると、やっぱり野球を描くと楽しいんです。ずっと夢中になっていると、ふと気づいたとき「俺はこの舞台に自分でお金を出して、自らやっているのになんで楽しんでいないんだろう。だったら、楽しいことを書こう。野球だ、野球!」って野球のネタを入れる。いつもそんな感じです。 業界では、僕が野球好きだと認識していただいているようで、ナイターを見ている時間帯、お仕事の連絡が一切来ません(笑)。 ――10月12日スタートの『土ドラ』枠では、初のスポーツエンタテインメントドラマ『バントマン』の放送が決定しています。 矢島 : まさかオリジナルの野球ドラマを描かせていただけるとは思ってもみませんでした。でも、野球だからといって、特別に力が入ることはありません。野球は全国民が好きなわけでなく、一部のファンが熱狂しているものです。そこで自分の知識を振りかざすと痛い目に遭うし、逆に怖いところもあります。本当に好きな詳しい人たちとは闘うつもりはありません。冷静に書きました。 ――今回の舞台では攻めた台詞がありますよね。 矢島 : これが舞台では大丈夫なんです(笑)。観ている人たちと同じ空間、空気感で共有できているからでしょうか。だからこそ、舞台が楽しいのかもしれません。それを言えば、舞台はテレビでは表現できないことができます。今回のようなソープランドを舞台にすることも難しいと思いますし。 ――今後、描いていきたいテーマは? 矢島 : 目の前のことに必死で、今後どうしていきたいかわかりませんが、死ぬまで脚本を書き続けることは決まっています。今がどういう時代なのか常にアンテナを張って察知しながら、何がお客さんにヒットするのかも意識して。 昔は原発や不妊治療など、大きなテーマを掲げていた時期もありました。それは興味深かったし、今の自分の礎になっているんですけど、それが強すぎると台詞が重くなりすぎてしまう。僕はあえてそこではなく、物語のなかに一つでも響くことが描けたらいいなと思っています。好きなものを書きつつ、時代とかけ離れすぎた作品にならないように。そうしていきたいです。 ――最後に、達成感を感じる瞬間を教えてください。 矢島 : 舞台を観に来たテレビの人たちから「テレビだとできないよ。悔しいな」「こういうことができていいな」って言われるときが、やっぱりうれしいです。 (取材:髙山 亜紀)
NewsCrunch編集部