流行語「もうええでしょう」が映す2024年とは “責め”の連鎖を断ち切る2025年にするために 田内学
それなのに、このセリフが人々を魅了したのは、視聴者が「悪者に憧れたから」ではないだろう。「責められる疲れ」を吹き飛ばしてくれるからだ。契約交渉の場面で、ピエール瀧さん演じる詐欺師が、取引相手に責められる。ところが、「もう、ええでしょう!」と一喝すると、瞬時に立場が逆転する。それが爽快なのだ。 自己責任社会からもコンプラ社会からもいろんなところで責められる僕らは、他人を責めて楽になりたいと感じてしまう。SNSにはそんな言葉が増えている気がしてならない。しかし、それが連鎖して次の「責め」を生んでいる。25年こそは、この連鎖を止めないと、ますます生きづらくなる。 この考えにいたったのは、平野啓一郎さんの短編小説集『富士山』に収録されている「ストレス・リレー」という作品を読んだからだ。 この物語にはその連鎖を止める英雄ルーシーが登場する。彼女は特別な能力を持っているわけではなく、僕らも心がけ一つで英雄になれることを教えてくれる。 25年を明るくするために、年末年始に本を読もうとされている人も多いだろう。その合間にでも、この物語を手に取ってみてはいかがだろうか。生きやすい社会を作るヒントがきっと見つかるはずだ。 新しい年が、みなさんにとって希望に満ちたものになりますように。一緒に「責め」の連鎖を断ち切れますように。それでは、よいお年を。 ※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号
田内学