FOMC年内3回利下げシナリオ維持はサプライズ:日銀の年内追加利上げの制約に:当局の防衛ラインまで再び円安が進む
FRBの6月利下げ開始は日銀の年内追加利上げの制約に
FRBが6月に利下げを開始し、その後のFOMCで2回に1回のペースで利下げを実施していくのであれば、それは日本銀行の年内の追加利上げを強く制約するだろう。FRBが利下げを実施している時期に日本銀行が利上げを行うと、国際資金フローや金融市場に予見できない影響を与えてしまう恐れがある。特に円高のリスクを高めてしまう可能性がある。 そのため、強い理由がないのであれば、日本銀行は、FRBの利下げが一巡したタイミングで、追加利上げの実施を検討するのではないか。その時期は、最短で来年1月の金融政策決定会合と見ておきたい。 FRBが利下げを進める中、日本銀行が今年後半に追加利上げに踏みきるのは、物価見通しが想定以上に大きく上振れる場合、円安・株高が急速に進む場合に限られるだろう。 他方、今年後半の日本銀行の追加利上げ観測が、金融市場で強まる可能性は比較的高いだろう。 日本銀行は、物価情勢について、「基調的な物価上昇率はまだ2%に達していない」、「予想物価上昇率は2%に向かって上昇している途中」との慎重な判断を示している。しかし3月19日には「2%の物価安定目標の実現は見通せるようになった」と物価目標達成を宣言している。そのため金融市場では、2%の物価目標達成と整合的な水準、つまり2%以上の水準まで政策金利を比較的迅速に引き上げていくのではないか、との観測が浮上するだろう。 そうした観測は、急速な円高・株安など、金融市場に大きな影響を与えることになる。これは、日本銀行が見切り発車的に「2%の物価目標達成」を宣言したことの弊害と言えるのではないか。
当局の防衛ラインまで再び円安が進む
日本銀行の3月19日のマイナス金利政策解除を受けて、為替市場では予想外に円安が進行した。政策変更自体は日米金利差縮小を通じて円高要因となるはずであるが、円高要因となるイベントを乗り越えたことで、短期的には円安が進行しているのが現状だ。 日本銀行は今後数年かけて金融政策の正常化を進め、FRBは利下げを進めていくことはほぼ確定的であり、こうした日米の金融政策の組み合わせは、過去数年間で恐らく行き過ぎたとみられる円安を緩やかに修正していくことになるだろう。 しかし、3月20日にはドル円レートが151円80銭程度と、昨年、一昨年の円安のピークまで進んだことを、当局は強く警戒しているはずだ。円安は、いわゆる防衛ラインに到達したのである。昨年、一昨年には超えなかったこの水準を超えて円安が進めば、少なくとも短期的には円安に弾みがついてしまい、それが物価高を通じて、国民生活を一段と圧迫しかねない。 そのため、政府が為替介入を実施する可能性は相応に出てきたと考えられる。他方、日本銀行は3月19日のマイナス金利政策解除を受けて、政策の自由度がかなり高まった。日本銀行は、追加利上げを示唆する口先介入や、長期金利の上昇を促すオペを実施することで、政府と足並みを揃えて円安阻止に動く可能性がある。 こうした為替の安定に向けた政府と日本銀行の強い連携は、近年は見られなかったことだ。実際にそれが発動されれば、円安阻止にかなりの力を発揮することになるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英