「発達障害」と「腸内細菌」の驚くべき「関連性」…自閉スペクトラム症を「腸から改善」する可能性を示した「衝撃の実験結果」
18人の自閉スペクトラム症を改善した実験
この抑制性ニューロンを活性化する物質である5-アミノ吉草酸(5-aminovaleric acid :5AV)とタウリンが大腸と血中で減少していました。5AVは、腸内マイクロバイオータがアミノ酸のL-リシンを代謝することで産生されます。一方タウリンは、イカやタコ、貝類、甲殻類及び魚類(心臓・脾臓・血合肉)に多く含まれているため、これらの食品を食べることで腸内での濃度が増加します。また、タウリンは、胆のうから分泌されるタウロコール酸などの胆汁酸が腸内マイクロバイオータによって分解されることでも産生されます。 そこで、5AVまたはタウリンを自閉スペクトラム症児の糞便を移植された親のマウスに与え、その親から生まれてきた赤ちゃんマウスにも餌に5AVまたはタウリンを混ぜて与えました。その結果、自閉スペクトラム症児の糞便を移植された親マウスもその親から生まれた赤ちゃんマウスも、どちらの場合も自閉スペクトラム様症状が改善したのです(※参考文献6-1)。 これらのマウスによる実験結果から、腸内マイクロバイオータが変化することで、脳内で使われる遺伝子が変化し、自閉スペクトラム様症状が起こる可能性が示されました。 また、ヒトでも次のような実験が行われました。自閉スペクトラム症児では、消化器症状がよく見られます。そこで、健常なヒトの糞便から胃腸炎を引き起こす可能性のあるクロストリジウム属の細菌を除去し、7~16歳の18人のアメリカの自閉スペクトラム症児に移植しました。その結果、消化器症状が著しく改善しました。 さらに、糞便を移植した自閉スペクトラム症児の保護者に対して、自閉スペクトラム症の症状の程度を推定するための面接検査(自閉スペクトラム症診断面接と呼ばれる)を行ったところ、自閉スペクトラム様の症状が統計的に有意に低下していたのです(※参考文献6-2)。 この症状が改善した18人を糞便移植後2年間にわたって追跡調査したところ、消化器症状も自閉スペクトラム様の症状も改善が維持されていました(※参考文献6-3)。これらの結果から、腸内マイクロバイオータが何らかのしくみを介して、自閉スペクトラム様の症状を改善する可能性が示されました。 ※参考文献 6-1 Sharon G et al., Cell 177, 1600-1618, 2019. 6-2 Kang DW et al., Microbiome 5, 10, 2017. 6-3 Kang DW et al., Scientific Reports 9, 5821, 2019. * * * 初回<なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる腹痛の正体>を読む
坪井 貴司(東京大学大学院総合文化研究科教授)