映画『ラストマイル』石原さとみや綾野剛らの出番は少なくて正解だった? シェアード・ユニバースの魅力とリスクとは?
シェアード・ユニバースが生む相乗効果
『ラストマイル』は、シェアード・ユニバースという手法を使った作品だ。聞き慣れない言葉だが、コンセプトはマーベルの「マーベル・シネマティック・ユニバース」と同じで、他の作品と時間軸をクロスオーバーさせることを意味している。 ここ数年のヒーロー映画に多く観られるが、ドラキュラやフランケンシュタイン、狼男といったモンスターものや『エイリアンvsプレデター』(2004)、クエンティン・タランティーノ監督作品などですでに使われている。また、カメオ出演もシェアード・ユニバースと考えられるだろう。 『ラストマイル』はTBS系のドラマ『アンナチュラル』(2018)と『MIU404』(2020)と世界を共有している。そのため、連続爆発事件を『アンナチュラル』と『MIU404』の登場人物の視点からもうかがい知ることができる。 なぜこんなことが可能なのかというと、3作通して野木亜紀子(脚本家)、塚原あゆ子(監督)、新井順子(プロデューサー)が関わっているからだ。3人はドラマ制作の時点ですでにシェアード・ユニバースを考えていたらしい。 『アンナチュラル』も『MIU404』も時事ネタをエンターテイメントに昇華させた作品として高い評価を得ており、ファンも多い。そのため、両作品のファンが本作に興味を持つのは容易に想像できる。また、古参のファンが作品の良さを宣伝することでドラマを見ていなかった観客を動員できる。 『ラストマイル』のように、社会問題の提起に過去に成功した作品の影響力を使うことは非常にうまく機能する。それに、観客の中には、本作をきっかけに『アンナチュラル』や『MIU404』に興味を持つ人も増える。シェアード・ユニバースを介して相乗効果が生まれるわけだ。
石原さとみや綾野剛らの出演シーンは少なくて正解だった?
いいことづくめのシェアード・ユニバースだが、リスクも孕んでいる。それは物語の複雑化とメイン俳優の濫立だ。 例えば、『アイアンマン』(2008)を中心とした「マーベル・シネマティック・ユニバース」は、解説本が出版されるほど複雑化している。新作がリリースされても、物語と時間軸、惑星の位置といった関係を理解していなければ楽しめないほどだ。 本来ならば娯楽として消費できたはずのヒーロー映画が、予習しなければ楽しめなくなり、新たなファンを呼びにくい状況になってしまっている。また、ユニバースが広がれば、徐々に作品がバラエティ豊かになっていく。その結果、一貫性が失われ、テーマがぼやけてくるのだ。 さらに、主役級の俳優陣が出演すると俳優の個性が埋没しかねない。『ラストマイル』はシェアード・ユニバースといっても、あくまでも物語をリードするのは満島ひかりと岡田将生である。キャラクターアークは二人にフォーカスされているため、視聴者は感情移入しやすい。 だが、もし石原さとみや綾野剛を物語の主軸に絡ませたら、視聴者は目移りしてしまうだろう。もちろん、最初は豪華キャストの登場に顔を綻ばせることだろうが、主役級があまりにも濫立すると個々のスター性が失われ、平均的になってしまうリスクがあるのだ。