映画『ラストマイル』石原さとみや綾野剛らの出番は少なくて正解だった? シェアード・ユニバースの魅力とリスクとは?
8月23日の公開以来、大ヒットを記録している映画『ラストマイル』。本作の人気を支えるのが、脚本を務めた野木亜紀子の人気ドラマと世界観をリンクさせた「シェアード・ユニバース」だ。今回は、そんな「シェアード・ユニバース」の知られざる魅力を紹介。新たな視点から『ラストマイル』の魅力を語る。(文・中川真知子)
ドラマで社会問題を扱うことの難しさ
社会問題の周知にストーリーテリングを使う作り手は多い。だが、社会問題の取り扱いは非常に難しく、真っ向から問題提起すれば社会から反発を食らう場合もある。 世界同時不況で社会的な不安が増大している昨今は特に社会問題を扱ったハードなストーリーは敬遠される傾向にあり、本当に伝えるべきことや知ってほしいことが届けられるべき観客に届かないという問題も発生する。 その点、現在ロングラン上映中の『ラストマイル』は、そういった点をクリアしながら社会問題を描いた作品として非常に優秀な作品と言えるだろう。
社会問題に鋭く切り込んだ『ラストマイル』
『ラストマイル』は、アメリカに本社を置く大手インターネットショッピングサイトの物流問題をテーマにしたサスペンス・スリラー。ブラックフライデー(流通業界最大の売り上げが見込める11月の感謝祭の翌日の金曜日)に倉庫から発送された商品が消費者のもとで爆発するという連続爆破事件を描いている。 ここまで書けば誰でもピンとくるだろう。『ラストマイル』は、ネットショップ大手Amazon.comと流通業者との関係や、顧客に商品を届ける物流能力が不足する「2024年問題」をテーマにしているのだ。 インターネットサイトで商品を「ポチった(購入した)」あと、何が起こっているのかを詳細に理解しているカスタマーは少ないはずだ。だから、当然、「2024問題」を正しく把握し、自分ごととして捉えているカスタマーも少ないだろう。 昨年、「2024年問題」がメディアで多く取り上げられた際、消費者の元に商品が届きにくくなるといった「BtoC(企業・カスタマー間取引)」にフォーカスした伝えられ方が目立った。しかし、実のところ、「BtoB(企業間取引)」を理解していなければ「2024年問題」は正しく理解できない。 本作では、画面上で商品を購入するとどのように注文が届き、倉庫で働く人がどのように動き、パッケージングされた後にどのように物流に乗るのか。玄関先で荷物を受け取るまでの工程、そこで発生する人々のドラマが生々しく映し出されている。 だが、「『2024年問題』にするどく切り込んだ社会派ドラマ」という売り込み方では残念ながら一部の人にしか訴求できないだろう。そこで、効果を発揮したのが「シェアード・ユニバース」だ。