本郷和人『光る君へ』栄光を取り戻すために『枕草子』を使うことを思いついた伊周。なぜ貴族にとって「春はあけぼの」が最高かと言えば、もちろん男女の…
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第25話は「決意」。越前の紙の美しさに心躍らせるまひろ。その頃、まひろのもとには宣孝(佐々木蔵之介さん)から恋文がマメに届いていて――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「あけぼの」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 花山院に矢を放った伊周・隆家兄弟は「左遷」。左遷先で彼らがどんな扱いを受けたかというと… * * * * * * * ◆『枕草子』を利用することを思いついた伊周 今回のお話で、伊周が都に戻ってきました。 かつて、叔父・道長と権力争いを続けていた伊周ですが、弟・隆家が元天皇・花山院に向けて矢を放つ<長徳の変>を起こしたために、その責任を取って大宰府へ左遷されていました。 戻ってきた伊周は、かつての栄光を取り戻すべく『枕草子』を利用し、定子のいる職御曹司を華やいだ場所にすることを思いつきます。 定子のもとにおもしろい女房がいる評判をたてて、宮中の人々の興味をひこうとしたわけですが、果たして思惑通りにいくのでしょうか? ということで今回は、『枕草子』に出てくる「あけぼの」について考えてみたいと思います。
◆春はあけぼの 「春はあけぼの。やうやう白くなり行く、山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」。 あまりに有名な『枕草子』の冒頭部分です。 春は曙がいい。次第に白んでいき・・と現代語訳するわけですが、それだけでは興ざめである。 愛する男と同衾していて、夜が白々と明けていく様を「二人で」楽しむ。春はそれが最高なの。清少納言の心情をそう読みこむべし、と私の師匠の五味文彦は解釈します(『『枕草子』の歴史学 春は曙の謎を解く』 (朝日選書))。
◆あけぼのが何時かといえば このリア充め…。いや、冷静に冷静に・・・。 この「あけぼの」ですが、何時ごろでしょうか。 このあとに「冬はつとめて」(冬は早朝がいい)とありますから、「あけぼの」は「つとめて」よりも早い。日の出の時間を考慮すると、4時半ごろでしょうか。 清少納言のお相手は当然「貴族」ですので、彼はこの時間に起き出し、自宅に帰り(当時は男が女性のもとへ通う)、朝廷に出勤することになります。
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