「BiSHの中では“個性”の面で苦しみました」モモコグミカンパニーの現在地
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHとして一時代を築き、解散後は小説家、アーティストなどマルチに活躍するモモコグミカンパニーさんにインタビュー。様々な形の“アイドル”が次々と誕生する今、アイドルの存在価値、埋もれないグループの秘訣、グループ解散後の活動などについて話を聞いた。 【動画】モモコグミカンパニーがナレーション担当、アイドルオーディション
“アイドルの存在価値”とは?
――モモコさんの小説デビュー作「御伽の国のみくる」では、メイド喫茶で働きながらアイドルを目指してオーディションを受け続けている女の子が描かれています。モモコさんは“アイドルの存在価値”を、どのように捉えていますか? モモコ「 “アイドル”という定義は難しくて、世の中の全てがアイドルといえばアイドルなんですよ。“クラスのマドンナ”とか“僕にとっての、私にとってのアイドル”とか、表に出ているか出ていないかだけで。 その中で、見られる立場のアイドル側からすると、この小説を書いた頃は“承認要求”が大きいのかなと考えていました。誰かに『かわいい』と言われないと自分の価値を認められない。アイドル=かわいい。それだけで“かわいい”存在だからアイドルになる。そういう意味で、今の時代のアイドルは承認欲求と密接なんじゃないかな、と。 誰もが『かわいい』と言われたいし、学業で一番より“かわいい”の方が目指しやすいという人も多いかもしれない。だからアイドルになりたいっていう子が、どんどん出てくるのかなと思います」 ――アイドルではなくても、“自分の存在価値”を模索している若者も多いと思います。エンタメ業界で活動する中で、モモコさんはご自身の存在価値をどのように見出していきましたか? モモコ「元々“物書き”になりたくて。BiSHのオーディションも、もちろん本気で入りたくて受けましたが、“オーディションを受ける子たちはどういう考え方なのか知りたい”という社会科見学みたいな気持ちもあったんです。そんな中で作詞を任されて、やりたいことができたというのが一番大きかったですね。自分の中の自信って、そこだけです。 BiSHの中では“個性”という面ですごく苦しみました。髪色が被りたくなくて金髪や水色にしたり、ちょっと奇行をしてみたり(笑)。そういうところで目立とうと足掻いていた時期もありました」 ――アイドルやアーティストなど人前に立つ方々は、本来の自分と人から見られている姿との乖離があったとしても、自分がどう見られているかということは、結構、気にしていますか? モモコ「めちゃめちゃ気にするタイプです。ライブのMCで数分話すのにも、ライブをぶち壊さないか考えながら一言一句作って臨んだり、トイレに籠ってボイスメモを聞き直して確認したり、モニターに映る自分の顔や歌声も気にしていました。でも、それって当たり前のことで、人前に立つ人は見られないと意味がないんですよね。 BiSHの事務所WACKのオーディションでの、プロデューサー・渡辺淳之介さんの言葉が印象に残っていて。7日間ずっと撮影されている中で、候補生の一人が『渡辺さんと話したいので、ちょっとカメラを止めてください』と言ったら、渡辺さんが『見られる前提だから。アイドルの“見られちゃいけない”はプロとしてダメ』と怒ったんです。その言葉が響いて、“全部見られる前提”でいないといけない、逆にいえば“素の自分”でいることなんだと思ったんです。だから“見られること”“気にすること”は当たり前で、それに加えていろいろ考えることがあるんだろうなと気づかされました。 “見せている部分”がアイドルだし、例えば誤爆とか見せる気がなくても誰かの目に映ったら、それはもう“アイドルの自分”。今は、そこも気をつけなきゃいけない時代ですね」 ――今やアイドルもアーティストも群雄割拠する中、埋もれないために個性やキャラクターを模索していっていると思いますが、モモコさんの考える埋もれないグループの秘訣とは何だと思いますか? モモコ「それが分かれば、みんな苦労してないんですが(笑)。BiSHで考えると、個性的を超えて“個性しかない”みたいなグループで。逆に個性がありすぎて一つにまとまることが大変だったというとこともありますが。他と違いすぎて比較されるグループもなくて浮いていたと思うんですが、そこを合わせにいかなかったのは、私たち偉かったんじゃないかな、と思います。『これが流行ってるからこうしようよ』とかは、全くなかったので。 BiSHの振り付けは全部簡単なんです。ライブでお客さんも一緒に盛り上がれるようにサビは手だけでできる簡単な振り付けにしたところも、受け入れてもらえる一因になったんじゃないかと思います。実は、私ができないから簡単になった説もあって(笑)。ずっとダンスをやってきた上手いメンバーも、私にレベルを合わせてくれていたんです。 私は歌割りも少なかったんですが、“モモコは歌割り少ないから、ずっとセンターにいな”みたいな曲もあって(笑)。そういう優しさでなんとか乗り切っていたし、それがいびつなグループの個性のひとつにもなっていたんじゃないかな、と。BiSHについてきてくれる方々がいたのは、そういう優しさとか気持ちの面で何か胸に響くものがあったのかなと思います。だから、“埋もれる”と悩んだことはないですね」 ――流行りに乗ろうと考えがちですが、そうしなかったのはなぜなんですか? モモコ「みんな『売れなくてもいいもの作っていたらいいよね』という感じだったんです。私自身も、“めっちゃ売れたら忙しくなんだろうな”とか“大人たちが入ってきて、BiSHがBiSHでなくなっちゃうのも嫌だな”とか、なんなら“メジャーデビューも嫌だな”と思っていたタイプで。もちろん売れた方がいいけど、自分たちが納得するものをまず作って、『受け入れられなくても別にいいよね』というスタンスは、突き抜けるためには必要だったのかなと思います」