メルセデス・ベンツ CL63 AMGの新しい5.5L V8エンジンは想像よりはるかに洗練されていた【10年ひと昔の新車】
鋭いピックアップ、凄まじいトルクに圧倒される
まずはフェイスリフトで精悍さを増したCL63AMGのハンドルを握った。スタートはカンヌ市街。粛々と行きたいが、大幅に向上したトルクをより低い回転域からデリバリーする特性は、スタートダッシュを俄然強烈なものにしていた。何しろ1500rpmですでに670Nmものトルクを発生し、しかもAMGスピードシフトMCTはロスのないダイレクトな変速を実現しているだけに、アクセルペダルを深く踏み込めば、そのまま中速域まで車体は一気に引っ張り上げられる。 しかも小排気量化も効いているのだろう。その先のピックアップは鋭く、ターボらしい二次曲線的なフィーリングで大パワーを発散させながら、一気に7000rpm近くまで達する。強いて不満を言えば、エンジンの音や伸び感だけではレヴリミット近しとは察せられず、回転計に始終目を向けておく必要はある。 この辺りは自然吸気との違いと言えるが、率直に言って、想像よりはるかに洗練され、そして抑揚に富んだフィーリングに仕上がっていることには嬉しくさせられた。 パフォーマンスパッケージは「S63AMG」で試した。圧倒されたのは、その凄まじいトルク。2000rpm辺りからすでにノーマルとのトルク感の差は歴然で、そこからトップエンドにかけても、明確に一枚上手の迫力で全長5m超のボディを瞬間移動させるのだ。これを味わった後にはノーマルを物足りないとすら思ってしまった。購入予定にない人はパフォーマンスパッケージ、近寄らない方が無難である。 痛快なのは、この獰猛なエンジンが信号待ちなどでピタッと停止することだ。Cモードでは2速発進となりスタート/ストップ機能が働く。エンジン再始動はとりたてて早くはないが、ストレスを感じさせるほどではない。 他にもオルタネーターの充電状況を最適管理するジェネレーターマネージメントシステムの搭載など細部に至る配慮により、燃費はS63AMGで10.5L/100km(約9.5km/L)と、上々の数値を記録している。CO2排出量も246g/kmと、従来の344g/kmから大幅に低減された。 専用のABC(アクティブボディコントロール)を採用するシャシは、比較的硬めの乗り心地を示す。とは言ってもゴツゴツ不快だなんてことがある筈はなく、普段は快適なクルージングをこなせる一方で、ワインディングロードなどでは姿勢変化を適度に抑えた引き締まった走りを楽しめる。 新機軸として、ESPにコーナリング時の内輪に軽いブレーキをかけて、LSD的に旋回力を高めるトルクベクトリングブレーキの機能が追加されているが、その効果を体感するのは難しい。いずれにせよ、最初はデッドに思えたステアリングが、馴染んでくるとまったり心地良くなるのが、このCLクラスやSクラスである。 なお、CL65AMGも同時にフェイスリフトを受けているが、こちらはパワートレーンに変更はなく、V型12気筒ならではの贅沢なフィーリングは、今もって絶品と表現できる。 CL63AMGは、フラッグシップクーペに相応しく、美しさもパフォーマンスも、環境性能も向上して生まれ変わった。M156への郷愁が完全に断ち切れたとは言わないが、しかしこの新しい価値は多くのユーザーから喝采とともに迎えられるに違いない。(文:島下泰久)
メルセデス・ベンツ CL63 AMG 主要諸元
●全長×全幅×全高:5106×1871×1426mm ●ホイールベース:2955mm ●車両重量:2135kg ●エンジン:V8DOHCツインターボ ●排気量:5461c ●最高出力:400kW(536ps)/5500rpm ●最大トルク:800Nm/2000-4500rpm ●トランスミッション:7速AT ●駆動方式:FR ●最高速:250km/h (リミッター) ●0→100km/h加速:4.5秒 ※EU準拠
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