軍総司令官解任から駐英大使任命へ、「ザルジニー人事」に垣間見える「チーム・ゼレンスキー」の不安と目算
握手するゼレンスキー大統領とザルジニー氏[2022年7月28日、ウクライナ・キーウ](C)photowalking/shutterstock.com
2月8日、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジニー将軍を解任し、陸軍司令官であったオレクサンドル・シルスキー将軍を新たな総司令官に任じた。ザルジニーには「ウクライナ英雄」勲章が授与されたものの、国民からの人気が非常に高い同将軍の解任と、知名度は低いがゼレンスキーから気に入られているとされるシルスキーの最高司令官への就任については、ゼレンスキーとその周辺による政治的思惑に関する憶測や推測を呼んだ。その後3月7日、ゼレンスキーはザルジニーの駐英大使任命の意向を発表した。 以前から不仲が噂されていたゼレンスキーとザルジニーの関係性は、苗字の頭文字が同じことから「『ゼ』と『ザ』」や「ふたりのZ」と称され国内外から注目を集めていた。本稿では、 ロシアによるウクライナ全面侵攻 から2年を前に行われたこの一大人事の経緯とこれに対する反応についてまとめたい。 ロシアによる全面侵攻の開始以降、「ゼ」と「ザ」の間での方針やスタンスの相違については以前から 度々報じられてきた が、2023年の反転攻勢が満足な成果を上げられなくなって以降、特に注目されたのが、2023年11月1日に英The Economist誌に掲載されたザルジニーの インタビュー であった。このインタビューにおいて同将軍は、戦争が長期化する中で次第にロシア軍優位の状況に向かっており、「ステイルメイト」(膠着状態)となりつつあるため、ドローンの活用や電子戦の強化、対砲兵戦と地雷対策への注力、そして兵員の確保の必要性を指摘した。これに対し、ゼレンスキーは記者会見の席上で「前線の状況はステイルメイトではない」とコメントし、「ゼ」と「ザ」の対立構図が取り沙汰されるようになった。
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田中祐真