住民の「目」と防犯理論を駆使した、治安向上を図る地域ぐるみのチャレンジ #こどもをまもる
犯罪者が狙うのは「入りやすく・見えにくい場所」
「誰が犯罪をするかなんて人を見ただけではわかりません。でも場所を見れば犯罪が起きる可能性が高いか低いか、わかるんです」 こう語るのは、犯罪学を専門とする立正大学の小宮信夫教授だ。「人」より「危ない場所(景色)」を見る手法は、ニューヨークやロンドンでも取り入れられているグローバルスタンダードだという。 「『不審者に注意』なんて看板だけあっても犯罪者はまったく気にしません。ポイントは第一に『入りやすいかどうか』。次に『見えにくいかどうか』です。そうした『入りやすく・見えにくい場所』=ホットスポットを重点的にパトロールするのがホットスポット・パトロールです」 「入りやすく・見えにくい場所」を警戒するような、犯罪の機会をそもそも与えないことによって犯罪を未然に防止しようとする考え方は「犯罪機会論」と呼ばれている。 犯罪機会論を取り入れた防犯は、全国の自治体でも少しずつ増えてきている。 「富山県や、新潟県、群馬県、栃木県は県レベルで取り組んでいます。特に富山県は『防犯上の指針』に犯罪機会論を取り入れた唯一の自治体です。市では神奈川県藤沢市がVR教材を作成するなど先進的です」 これらの自治体が取り組んでいる「地域安全マップ」の作成では、子どもたちがフィールドワークを通してホットスポットを学ぶ。 「マップ作成はあくまでおまけです。大事なのは子どもたちが自分の目で景色を見たときに、ここは安全、ここは危険だから警戒しようと思えるようになることです。将来地元を離れたときにも、危険な道を避けるなど、一生使える財産を与えるのが目的です」
公衆トイレや遊具に潜むリスクを犯罪者視点でパトロール
東京都墨田区の寺七西町会では、犯罪機会論を防犯活動に取り入れている。小宮教授の教え子と地域安全マップを共同作成したり、防犯講座で得た知見をパトロールに活用したりしている。
防犯部長の丁官一郎さんはこう語る。 「たとえば公衆トイレで男女の入り口が直前まで一緒の動線だと、女性を尾行する犯人が外から目立たずに危険性が増します。また、滑り台やブランコに正対しているベンチでは女の子の下着が見える可能性があるため、そこに長時間座っている人がいたら警戒しないといけません」