安倍首相は米国とイランの仲介をできるか?
●安倍首相の思い入れ
また、安倍首相にはイラン訪問について特別の思い入れがあるようです。安倍首相は1983年に父・晋太郎外相に同行してイランを訪問した経験があり、第2次安倍政権が発足した後から、イラン訪問のタイミングを探り続けてきました。国連総会の際には毎年ロウハニ大統領と会談しています。 しかも今年は、日本とイランの外交関係が樹立されてからちょうど90年になります。 イランは1979年の「イラン革命」以来、対外面でも米大使館占拠事件などさまざまな出来事がありましたが、日本は一貫してイランとの友好関係を維持することに努めてきました。 核合意については、合意に参加した国はいずれもイランの立場を支持していますが、日本にも核合意の維持のため力を貸してほしいと要望しています。米国との緊張が高まる中で、イランのザリフ外相が5月中旬に急きょ訪日し、安倍首相や河野外相と会談したのもそのためでした。
●細心の注意が必要な交渉
しかし、核問題について日本が米国とイランの間を仲介することには大きな危険が伴います。仲介を試みた結果、米国か、あるいはイランか、いずれか一方に加担することになる恐れがあるからです。日本にそのような意図がまったくなくても、一方に加担していると捉えられる結果になることが問題です。 トランプ氏は対話を望んでいますが、イランは対話に慎重です。 イランの立場からすれば、米国は核合意から一方的に離脱し、しかも制裁を科しておきながら対話を望むのは矛盾した態度になります。そしてイランは、「米国が制裁を解除するなら対話に応じる」という立場を取っています。ロウハニ大統領はそのことを明言しています。「制裁の解除」でなく「緩和」であっても対話に応じる考えだとも伝えられています。 しかし、そのいずれも米国は受け入れないでしょう。 そもそも、イランは米国に対して強い不信感を抱いています。イランの最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉はしないと断言し、また、ロウハニ大統領やザリフ外相は、アメリカは一度結んだ合意を勝手に離脱し、仮に交渉したところでその約束が守られるという信用がない、などと発言したことがあります。 このような状況の中でイランを訪問する安倍首相には慎重さが求められます。トランプ氏との友好関係を重視するあまり、核合意の修正を支持していると誤解されてはなりません。米・イラン間の駆け引きに深入りすることなく、一般論として何事も対話で解決すべきだという程度のことしか言えません。