韓国大統領の弾劾を求めるデモと、民主主義を照らす灯火──連載:松岡宗嗣の時事コラム
民主主義の成熟度を語る前に
世代を問わず、なぜここまで多くの人がデモに参加するのか。前述の友人はこう語る。 「韓国では長いあいだ独裁政権を経験してきましたが、 民主主義を求める市民運動によって克服してきました。これを少しでも覆そうとすることは許せないとみんなが思っています。だから10代から年配の人まで、あらゆる人々が今回の戒厳令の宣布、内乱の試みに対して抗議する集会に集まったのです」 戒厳令をめぐるニュースが日本で報道された際、テレビのアナウンサーから「韓国では未だ民主主義が根づいていない」という、未成熟ではといった趣旨の発言があった。それに対し、これだけ多くの市民が声をあげ、すぐに戒厳令を解除できたのは、韓国の民主主義が成熟していることの現れだという声もあった。 こうしたやりとりを見ていて、そもそも私たちは簡単に韓国の民主主義をジャッジできる立場にいるのだろうかと思った。同時に、翻って日本の民主主義ははたして成熟しているのだろうかとも。 韓国の民主化を考える上で、そもそも日本による植民地化があったことは切り離せない。日本によって朝鮮半島は植民地化され、日本の敗戦により解放されるも、冷戦を背景に南北に分断され朝鮮戦争が起きた。その後軍事独裁政権が続くも、多くの市民が血を流しながら民主主義を勝ち取ってきた。そうした背景を棚に上げて民主主義の成熟度を語ることはできないのではないか。 現在も国会前では市民によるデモが続いている。たった一瞬しかその様子を見ることはできなかったが、大勢の民主主義の守り手の姿を見て、感じ・学ぶことが多かった。 14日、尹大統領の弾劾議案が国会で可決され職務が停止となった。これから憲法裁判所が弾劾の妥当性を審理し、大統領の罷免について判断する。今後の動きを注視していきたい。
松岡宗嗣(まつおか そうし) ライター、一般社団法人fair代表理事 1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する「一般社団法人fair」代表理事。ゲイであることをオープンにしながらライターとして活動。教育機関や企業、自治体等で多様な性のあり方に関する研修・講演なども行っている。単著『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。 文・松岡宗嗣 編集・神谷 晃(GQ)