韓国大統領の弾劾を求めるデモと、民主主義を照らす灯火──連載:松岡宗嗣の時事コラム
K-POPにペンライト、音楽フェス?
翌日、空は澄み渡り快晴だが、風が吹いていてとても寒い。日が沈むとさらに寒さは増す。急遽、現地のコンビニで見つけた手袋を購入した。 国会議事堂前に向かうため駅に入ると、すでに多くの人が集まっており、出口の混雑による危険性からか、電車は地下鉄の国会議事堂駅には止まらず通過する措置がとられていた。 次の汝矣島駅を降りると、すでに長蛇の列になっており、階段を上り出口を出ると、大勢が国会前に向かって歩みを進めていた。 見る限り若い人も多く、年齢も性別もさまざまだった。韓国のデモでよく用いられるろうそくを持つ人がたくさんいた。 K-POPアイドルを応援するペンライトを持つ人も大勢いた。過去「ろうそくデモ」の際、ろうそくの光はすぐに消える(つまりデモはすぐ終わる)といった揶揄の声があったことから、消えない光としてペンライトを持ってきたという説を聞いた。 国会前の通りには大型モニターとステージが設置され、スピーチやシュプレヒコールだけでなく、歌のパフォーマンスも行われていた。 aespaやBTSなど、K-POPの音楽も流れていた。韓国のデモの定番となっている少女時代のデビュー曲「Into the new world」や、最近SNSでよく耳にするBLACKPINKのROSÉとブルーノ・マーズのコラボ曲「APT.」も流れていて、さながら音楽フェスのようでもあった。たった数日でこの規模のデモをオーガナイズできることにも、市民運動の蓄積を感じさせられた。
市民どうしのサポート
韓国のデモで特徴的なのが、長さのある旗だろう。今回もさまざまな旗が国会前ではためいていた。 なかにはLGBTQ+の権利を象徴するレインボーフラッグや、トランスジェンダーカラーのフラッグを持つ人もいた。なぜ性的マイノリティと今回のデモに関係があるのか?と疑問を持つ人もいるかもしれない。その背景には、尹大統領や与党「国民の力」のコアな支持組織の一つに、性的マイノリティの権利保障に最も反対しているキリスト教系保守派団体があるという点が反発に繋がっているのだという。 民主主義の重要なポイントは、多数決ではなく少数意見の尊重だが、独裁政権へと逆行することは、まさにマイノリティの権利侵害に直結し得る。そうしたリアルな危機感があるのではないかと思った。 掲げられていた旗の中には「大喜利」のようなものもあった。SNSでも注目を集めているが、例えば「全国お家でゴロゴロ連合」「全国手足冷え性連合」や「来週試験です」と書かれた旗など、意匠を凝らしたフラッグが掲げられていた。「不安で家でゲームもできない」と書かれた紙を背中に貼り、国会前で座ってゲームをしている人もいたという。 一見ふざけているような旗も、実は意味がある。ペンライトと同じく、「従北勢力だ」といった特定の政治団体だけが集まっているデモだというレッテル貼りに対して、ただ市民が集まっていることを示すために使われたことがはじまりだという。 デモに参加する市民どうしのサポートも印象的だった。 デモの付近では、ペットボトルの水を配布する人もいた。SNSを見ると、デモ会場まで乗ってきたタクシーを無料にしてくれたという声や、付近の店のコーヒーをたくさん決済しておき、必要な人に無料で提供する人もいたという。女性用トイレには多くの生理用品が置かれていたというSNSの投稿もあった。 寒空の下、外で長時間立ち続けることだけでも大変なことだ。民主主義を自分たちで守っていくために、市民どうしで助け合いながら声をあげていく姿が目に焼きついている。