ミルクセーキにこだわり創業100年へ 九州最古の喫茶店「ツル茶ん」
長崎市油屋町の喫茶店「ツル茶ん」は1925(大正14)年に創業。九州最古の喫茶店とされる。翌年、元号は昭和となった。戦時の食糧統制や原爆被害を経て、来年の5月、100年の節目を迎える。 【写真で見る】1925年ごろの「ツル茶ん」外観 創業者は、現店主の川村隆男さん(65)の祖父岳男さん(故人)。当時、禁酒法下の米国で起きた喫茶店ブームが日本に波及していた。岳男さんは会社の上司に勧められ、新しい商売を始めることに。鶴が羽を広げたような形から「鶴の港」と呼ばれる長崎港。その地に初めて生まれた喫茶店という意味で「ツル茶ん」と名付けた。 開店から間もなく、看板メニューの「ミルクセーキ」が誕生した。当時主流だった牛乳を練乳に替え、削った氷を入れてレモンを加え、飲み物とかき氷を合体させたような新たな食感を生み出した。新聞社だった建物を使った店は文化人や知識人も訪れ、にぎわった。 岳男さんの子で後に2代目となる忠男さん(94)の少年時代には、戦争が暗い影を落とした。戦況の悪化でコーヒーや砂糖が手に入らなくなり、店は44年ごろに休業。45年8月9日、米軍が原爆を投下し、爆心地の南約3・7キロにあった店は爆風でゆがんだ。 店舗2階の自宅で被爆した忠男さんは、母テルさんらと共に岳男さんの古里、長崎県小浜町(現・雲仙市)に避難。戦後はインフレなどで混乱する中、店をダンスレッスン場として貸し出すなどして食いつないだ。徴兵され沖縄の戦地で生き延びた岳男さんが46年11月に復員し、店は47年、営業を再開した。 3代目の隆男さんは、祖父、父が守ったミルクセーキを今も手作りすることにこだわる。戦前から通う高齢者ら地元の常連客のほか、SNS(ネット交流サービス)の情報を頼りにレトロなたたずまいや味を求めてやってくる若者も多い。長崎市内では店の創業100年を記念したラッピングバスも走る。 隆男さんは「『100年』という年月は、店に貢献してきたみんなで積み上げてきた財産。ぜひ長崎に来て、足を運んでほしい」と願っている。【川島一起】