大手が撤退した国産アーチェリーを復活 町工場2代目が磨く「小さな会社だからこそ」の強み
「細々と始めるなら失敗しない」
自社製品で最も話題を呼んだのが、2020年に発表したアーチェリーハンドルです。 西川さんは元々、アーチェリーが趣味でした。かつてはヤマハやニシザワといった大手企業がハンドルを作っていましたが、競技人口の減少などから撤退していました。 西川さんは最初、自分用として他社製品を参考に見よう見まねで作りました。2013年に東京五輪開催が決まったことで、競技人口の増加を期待して事業化を目指しました。 「日本のアーチェリー市場は、大企業が参入して採算の取れる規模ではありません。しかし、小さな会社が最小限の設備やリソースで細々と始めるなら、失敗はしないだろうと考えました」
海外の展示会で歓迎される
2016年には、かつてニシザワでアーチェリーハンドルを作っていた本郷左千夫さん(現・西川精機製作所技術顧問)に自作品を見てもらいました。本郷さんからは「ダメ出し」され、製造を教えてもらうことになりました。 本郷さんの技術論は暗黙知のようなもので、量産化には言葉を数値に置き換える作業が不可欠でした。「言われたことに基づいて作り、本郷さんにどれが正しいのかを判断してもらう作業を繰り返しました」 アーチェリーハンドルの復活は、電気通信大学などとの産学連携プロジェクト「プロジェクト桜」として取り組みました。本郷さんの技術論に西川精機の設計力と金属加工技術、大学の研究成果を融合して完成を目指しました。 電気通信大学が矢を打った時の振動を計測したところ、アーチェリーハンドルの上下に取り付ける板バネとの間に生じるすき間が原因であることが分かりました。振動でぶれが生じれば命中精度に影響するとの仮説から、すき間を可能な限りなくし、振動を防ぐ技術を開発しました。 「アーチェリーをする人は、矢を放った感覚がしっくりきた時『この弓具は打った後の打ち感がいい』と言うことがあります。振動を抑えることは打ち感を良くする要因の一つだと理解しました」 西川さんは2020年2月、米ラスベガスで開かれたアーチェリーの国際大会での展示会に、アーチェリーハンドルを出品。会場では「日本が帰ってきてくれた」と歓迎されました。 西川精機製作所のアーチェリーハンドルは、国際大会で実績のある海外選手に採用されました。また、日本オリンピック委員会(JOC)の強化選手に選ばれた経験があり、現在は台湾を拠点に活躍する森みみ選手とモニター契約を結んでいます。 販売実績は思ったほど上がっていないそうですが、町工場による国産アーチェリーの復活は、多くのメディアで取り上げられました。パラリンピックのアーチェリー競技用のハンドル「コンパウントボウ」も、東京都立産業技術研究センターの障害者スポーツ研究開発推進事業に採択されました。 現在は2028年開催のロサンゼルス五輪の候補選手に使ってもらうことを目指しています。