人口800人の村で暮らすトランスジェンダーのリアルライフ 「あんたはええ人じゃ」100歳の親友と家族、支え合い頼り合い
最高裁の判断は大きく報道され、同様の裁判を過去に起こしていた崇来人さんにも再び注目が集まったが、村での生活は変わらなかった。 滝川生夫さん(84)と美雪さん(83)夫婦は、「法律のことはよく分からんけど、テレビや新聞に出るってことはえらいことをしたんだなと感じた」と振り返る。崇来人さんは性同一性障害などについて説明したことはない。それでも滝川さんは崇来人さんに語りかける。 「男だ女だいうこと関係なしの付き合いじゃから。自分の気持ちだけのことじゃけ、違和感も不具合もねえな」 ▽「新婚生活」 崇来人さんは、2024年2月の性別変更を経て、翌3月に幸さんと入籍した。祝福は、一度も話したことのない村人からも寄せられた。戸籍上は女性として婚姻届を提出し、不受理となってから8年が過ぎていた。 結婚から3カ月を前にしたある日、崇来人さんに「珍しいヘビを捕まえた」と知り合いから電話が入った。は虫類好きの幸さんとともに、現場に直行する。捕獲されたのはシロマダラ。夜行性で人目に触れることが少なく「幻のヘビ」とも称される。「かわいいし会えてうれしい」と幸さん。のどかな日常が垣間見えた。
生活はほとんど変わらない。共働きの核家族。夫婦は登校する息子を見送った後、朝食をとり、それぞれの職場へ出かけていく。息子が家事を手伝い、夕食は3人揃って食べる。息子の進路に期待と不安が膨らむ日々だ。 崇来人さんが「家族」を感じる瞬間は、毎日顔を合わせて小さな変化に気づいたとき、家事の分担など支え合っているとき。そして相続について考えるときだ。息子にどんな財産を残せるだろうか。親族の遺産をどのように受け継げばいいか。崇来人さんは「これでいつ死んでも大丈夫」と冗談交じりに話す。 「自分も周りもありのままに受け止め合えて、毎日を朗らかにのびのびと過ごせたら幸せです」 崇来人さんが40歳のカミングアウトの際にフェイスブックに記した言葉だ。 あっという間だったような、すごい昔のような―。歩んだ道のりを振り返り、いま、当時の自分にこう語りかける。 「自分に素直に生きること。自分がどう生きたいのかがはっきりすれば、理解と支援の輪が生まれ、次第に自分の周りから社会が変わっていく。君は間違っていない」