人口800人の村で暮らすトランスジェンダーのリアルライフ 「あんたはええ人じゃ」100歳の親友と家族、支え合い頼り合い
トランスジェンダーの臼井崇来人(うすい・たかきーと)さん(50)は妻の幸さん(46)と中学3年の息子と暮らす。サルナシ栽培など農業を営む岡山県新庄村は、人口約800人。中国山地が広がる鳥取との県境に位置する、空気が澄んだ緑豊かな村だ。 【写真】自分がいない朝礼の場で上司が勝手に「ゲイ」と暴露… 採用時に担当者にだけ伝えたことなのに 全員が「知らないふり」、陰では誰に最初にカミングアウトするかを賭けていた… 「子どもがアリをつぶすような、ちょっと残酷な好奇心ですよ」
崇来人さんは、生殖能力をなくす手術を受けていないため、性別変更を認められず、最高裁まで争った末に2019年、訴えを退けられた。LGBTQを巡る社会情勢の変化を受けて、最高裁は2023年、判断を変更した。2024年2月、女性から男性への性別変更を認められた崇来人さんを支えたリアルライフは…(共同通信=北野貴史) ▽「あんたはええ人じゃ」 崇来人さんの村一番の親友は、2025年2月に100歳を迎える笹野清子さん。農作業の合間にお茶や散歩をする仲だ。人間関係やバッシングに悩んでいたある日、笹野さんから「あんたはええ人じゃ。お天道様は見てなさるでな」と声をかけられた。 「自分のことを理解してくれる人が1人でもいたらこんなに救われるのか」 崇来人さんは痛感する。 「人は年齢や性別じゃねぇけぇな。臼井さんとは心が通うとるわけ。とってもとっても大切な存在ですわ」 笹野さんは思いをにじませた。 ▽村との出合い
崇来人さんは3歳のころから、心の性と社会に与えられる性に違いがあることを自覚。買ってもらう衣類やおもちゃは赤色や花柄といった「女の子らしい」ものが多く、児童館の劇では看護婦の役をあてがわれた。成長するにつれて性への違和感は増した一方、「社会に馴染むために、女子として生きなければ」という強迫観念も強まったという。 大学生時代、地域の自然や文化に触れる体験型観光「エコツーリズム」を学びに中米コスタリカへ。1950年代、アメリカで徴兵を拒否したクエーカー教徒らが入植した町モンテベルデには、その信条から自然を保護しながら生活を営む伝統が残る。手つかずの森林に入ると鳥や虫の鳴き声が響き渡り。ガイドが常に野生のナマケモノの居場所を把握するほど人間と自然の距離が近かった。 1999年に帰国後、偶然仕事で新庄村を訪れた。朝は野鳥の声で目覚め、夜はカエルの声とともに眠る生活。春になれば宿場町の「がいせん桜」並木が県内外の花見客で賑わい、秋には特産のもち米「ヒメノモチ」の黄色い稲穂が風に揺れる。「日本のモンテベルデ」「ここはエコツーリズムのメッカになる」。そう感じたという。