人口800人の村で暮らすトランスジェンダーのリアルライフ 「あんたはええ人じゃ」100歳の親友と家族、支え合い頼り合い
家では2人から「たかきーと」と呼ばれることが多い。旧名の「たかこ(takako)」と、スペイン語圏で男性の愛称として語尾に付けられる「イート(ito)」を組み合わせた「崇来人(takaquito)」が海外でのニックネームで、戸籍名にも選んだ。 はじめは父親だと思われているのか気にかけていたという。しかし村人と家族について話すときは、家族からも、村人からも、次第に「お父さん」と呼ばれるようになった。それまでの「たかきーと」、「臼井さん」という中性的な呼称が男性的なものに変わり、うれしさを覚えた。 2016年3月に戸籍上は女性のまま、婚姻届を提出した。続柄の欄は「長女男」とし「私は女性ではない」と主張する文書を添えたが、「女性同士の婚姻は不適法」として受理されなかった。「やっぱりな」とも思ったが、「指をくわえるより、悔いが残らないようにやれることはやろう」と決意した。 崇来人さんは訴えの場を法廷に移し、家庭裁判所に性別変更を申し立てたが認められず、最高裁まで争うことに。社会を変えようとメディアで訴えるたびに、「手術なしで性同一性障害を名乗るな」などとネット上でバッシングや偏見による差別を受け、家族への風当たりも強まった。 ▽リアルなフィードバック
2019年、最高裁でも申し立ては退けられた。「もういいかな思ったこともある。ネット上は妄想の世界。相手のことを知らずに正当な意見は言えない。人間関係がより希薄な都会も、SNSと似たような偏見が生まれやすいのではないか」と崇来人さんは語る。 新庄村では、良くも悪くも日常的にフィードバックがある。「おねえさん」、「おばちゃん」と呼ばれることはその一例。「悪気があって、女性的な扱いをする人はいない。でもそうされる度、心の中でため息が出る」とこぼす。 その一方で、「この人はなぜそう言ったのか」と考える。相手の価値観、自分の態度、周りにいる人の属性などを振り返ることで、発言を受け入れられるという。「相手や自分の態度を変えたいと思うのではない。それぞれの現在地を確認することで、よりリアルな存在だと感じられる」と話した。 2023年には性的少数者をめぐって理解増進法が施行され、戸籍上の性別の変更について、最高裁が性同一性障害特例法にある生殖能力をなくす手術を事実上求める規定を違憲、無効と判断した。