シリア・アサド政権「あっけない」崩壊の裏事情、弱まるイランの影響力、イスラエル一強にトルコはどう出る
だが、不思議なことに、アサド政権はイスラエルを報復攻撃するのではなく、シリア国内でトルコと国境を接するイドリブのシリア人を空爆した。なぜそうしたのか。 イドリブにいたのは、欧米でテロ指名されているスンニ派イスラム原理主義過激派だった。彼らは主にHTSの組織員なのだが、トルコが2022年から軍事訓練を施していた。テロ指名組織でありながらトルコが支援し、イラン系勢力と戦うという意味では、敵の敵は味方でイスラエルの味方だった。
シリア反政府勢力が攻撃を始めたとき、イスラエルはロシアを通じてアサド大統領にメッセージを送った。「イラン系武装勢力をシリア領土内から全員追放するのであれば、アサド氏が今後もシリア大統領であることを認める」というものだった。 ■ロシア・トルコ・イランで分割統治? 現在、シリアでは不可解なことが相次いで起きている。例えば、前出のジュラニ氏についてだ。アメリカは彼を1000万ドルの報奨金をかけてCIA(中央情報局)が行方を追っているが、同じアメリカのCNNが彼とのインタビューに成功している。
CNNが放送した後、彼が殺害されたというニュースはない。これまでイスラム武装勢力ヒズボラやハマスの指導者が次々と殺害されたことを目の当たりにしてきた後では、これはとても不可解なことだ。 さらに、ロシア海軍がシリアの戦略的要衝であるタルトゥース海軍基地から撤退したという報道もある。アサド政権を強く支えてきたロシアが、アサド政権を支えられないとシリア側に正式に通達したという話も聞こえてくる。 そのロシアはどうするのか。アサドを切り捨てたロシアは、カタールの首都ドーハでトルコとイラン側と接触。アサド政権崩壊後のシリアの分割を協議したという。
前出のHTSをはじめ、シリアの反政府勢力はさまざまな名前で呼ばれている。ただ、彼らはシリア政府が北部内の本拠地内にいる限り弾圧しないと約束した面々だ。 一方で、シリア南部の反政府勢力は何者か。アサド政権はなぜ、彼らを放置していたのか。 2011年、いわゆる「アラブの春」がシリアにまで及んだとき、シリア南部にあるダルアー県は、アサド政権打倒を叫んで蜂起した初めての地域だった。当時、ヨルダンとイスラエル、アメリカ、ロシア、イランの間で合意がなされ、南部の反政府勢力には3つの選択肢が提示された。