行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から
横田 明美(明治大学 法学部 教授) 行政サービスに生成AIを活用する動きが広がっています。すでに横須賀市など一部自治体はChatGPT等を導入し、書類の下書きなど業務の効率化を進めています。政府もデジタル庁を中心に、一部省庁の業務に生成AIを利用する方針です。しかし、そこにはいくつもの課題が。法学の立場から「行政とAI」の現状を分析します。 ◇「行政とAI」をめぐる法的課題 「行政とAI」というテーマは2017年ごろから議論されていますが、昨今、私たちの身近なところにもAIの活用事例が出てきており、再び話題になっています。行政と法の関係を考える行政法にとっては、二重の意味で問題となります。それは「行政によるAIに関する規制」と「行政によるAIの利活用」です。 前者は、AIに普及がもたらす社会の変化に、行政はどのように対応するべきかというテーマです。従来の規制で変化に対応できるのか。新しい規制の生成過程から、執行に至る過程まで、さまざまな事柄が課題となります。 後者は、行政のデジタル化とも関係するテーマです。人口減少に伴う働き手不足と高齢化の進展に伴う社会の変化に対応するためには、行政サービスの負担軽減(ひいては破綻回避)にAIの利活用は不可避といえます。その場合もやはり、情報などをどのようにコントロールするかが課題です。 これまでの行政法体系は、海外の法制度を学びながら発展してきました。しかし、プライバシーや個人情報に関する規律など、情報に関する場面ではいろいろと錯綜しています。 そもそも、行政法は紛争の事前予防としての役割が説かれることがあります。それは、民事法・刑事法による事後的な損害賠償や刑罰では解決できない紛争が存在することを示唆しています。 市民にはそれぞれ活動の自由がありますが、社会に危険をもたらし得る活動であれば、行政が先行して規制をかけることで、社会の危険を合理的な範囲におさめることが必要な場合があります。 行政が紛争の未然防止を図る主な手法としては、一定要件を満たしているかを認定する「許可」があります。他方、事後的な対応として調査権限を活用したり、事業者へ報告を求めたり、場合によっては事業停止命令や製品回収命令などを行うこともあります。 たとえば、道路上の交通ルールは道路交通法で定められており、運転については自動免許証など“人”に着目した許可制により規制をしています。そのほか、タクシーやトラック運送など“事業”に着目した各規制(道路運送法等)、車検制度など“物”に着目した規制(道路運送車両法等)、あるいは高速道路の規格など“場”についての規制(道路法等)があります。 これらの行政権限は、市民の権利・自由を制約する側面を持つため、法律の根拠がなくてはいけません。国民を代表する議会がつくった法律や条例によってのみ、強制力を伴う行政活動は行うことができる。これを「法律による行政の原理」のうち「法律の留保」といい、法治主義の一側面です。これは、現代の日本社会では一定以上は実現されています。 しかし、新たにAIという人間の行動や考え方を左右するようなものが出てきた今、その法治主義の原理に立ち戻って考えるべき課題がいくつも浮上しているのです。