《通院が困難なら…》知っておきたい「訪問診療」の選択肢 保険診療の範囲内のため費用は高額にならず、電話での相談や臨時の往診も可能
「月に2度、高血圧や糖尿の薬を処方してもらいに杖をついて病院に通っていたのですが、自宅からバスや電車を乗り継ぐため行き帰りが不安でした。先月、とうとう転んで手首を骨折してしまい、気力、体力ともに通院自体が困難になってしまった……」
都内郊外に住む70代男性はそう言って嘆息する。こうした悩みに直面した場合、「訪問診療」という選択肢があることを考慮に入れたい。 ここで言う訪問診療は緊急時に自宅に医師に来てもらう「往診」と異なり、通院困難な患者に対し医師が診療予定(診療計画)を立て、医師や看護師が計画的に訪問して行なう診療(定期訪問診療)のことを指す。 12月6日に厚生労働省が公表した「地域医療構想」案では、高齢者の数がピークを迎える2040年に在宅医療を受ける85歳以上の患者が2020年より62%増加する見通しであることを踏まえ、「在宅医療への対応強化」が示された。訪問診療医の田代和馬医師(ひなた在宅クリニック山王院長)が語る。 「費用を気にされる方もいますが、訪問診療は保険診療の範囲内で行なわれるので、決して高額にはなりません。受け持ちの患者さんには24時間365日対応し、何かあれば電話での相談や臨時の往診も可能です。入院病床の逼迫が想定されるなか、外来、入院に次ぐ“第3の医療現場”として、在宅医療の重要性は高まっています」
「もっと早く利用するべきだった」と後悔
訪問診療の存在を知らず、老親の通院の付き添いや自宅での看病に苦労し、家族が疲れ果ててしまうケースは多いと田代氏は言う。 「認知症が悪化してかかりつけ医に通えなくなり、ご家族が『来てください』と駆け込んでくるケースがあります。もっと早く訪問医療を利用するべきだったと後悔する人をたくさん見てきました」 地域にどんな訪問診療医がいるかわからない場合、自治体が設置している「地域包括支援センター」に問い合わせる方法がある。同センターに相談すると介護保険のケアマネジャーや保健師・社会福祉士などからサポートが受けられるため、訪問介護や通所介護など、介護保険サービスにつながりやすくなる。 病院に行かず、医者に来てもらう──それが当たり前になる時代がすぐそこにきている。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号